第ニ章

 めっきり秋が深まってきた。木々の葉っぱを撫でて通り過ぎるそよ風が心地よい。

 紅葉した木々は大学のキャンパスを色鮮やかに染めていた。

 ベンチで本を読んでいた私はいつしかうとうとと居眠りをしていた。


ーよおっーいきなり肩を叩かれ、起きあがった。

「びっくりさせないでよ。もう」

肩を叩いたのは親友の高野裕子だった。

「ごめん、ごめん。でも恵理、気持ちよさそうに寝てたよ。彼氏の夢でも見てたのかな」

「そんなんじゃないってば・・」

 裕子は自販機で買ってきたカップコーヒーを私に渡し横に腰かけた。

「サンキュー」私はコーヒーを一口飲むと「あー、うまい。眠気さめた」

「おいおい、即効かよ」裕子がつっこむ。


「もう、このキャンパスともあとわずかだなあ」

「そうだね。もう来春は卒業なんだからね」

 そうだ。あと半年でここともお別れだ。来年は社会人になるのだ。

 私の名は上村恵理。昭和六十年六月九日生まれ。二十三歳。東京都立大学、政治経済学部四回生。父親は現役の国会議員で私は来春から父の議員事務所で働くことになっている。他の学生たちは、たいてい就職先が決まっており、のんびり過ごしている。裕子も大手の新聞社に採用が内定していた。

「でも、これから不安だよね。リーマンショックなんて予想もしなかった事が起きちゃって」

「そうだね。これからまた不景気になるんだろうね」

 九月に発覚したアメリカのリーマンブラザーズの破綻は世界経済を大きく混乱させていた。長らく続く平成不況のなか、少しづつ景気が上向き始めた矢先のことである。

「民間大手に就職出来てもいつリストラされるかわかんないしなあ。不安だよ。その点、恵理は羨ましいなあ。お父さんが国会議員で秘書見習いで仕事出来るんだから」

 私の父の名は上村光三。東京都第七区から出馬当選した衆議院議員。

 第一公約として高齢者の医療費負担の削減を掲げている。祖父はかつて外務大臣を歴任した上村源次郎である。

 私は政治家の家系に生まれたのである。ということで私は就職活動はせず、父の事務所で働く道を選んだのである。私の家系は世間でいわれるエリート家系ということで、私も子供のころから英才教育を受けてきた。しかし、それが苦痛だと思ったことはなかった。小学校、中学校とも成績は学年で十番以下に下がったことはなかった。高校も都内で有数の進学校に進んでいた。只、私が政治の世界で働こうと決めたのは父母から押し付けられたからではない。私自身が政治家となってこの国をみんなが住みよい国にするためにと志を持ったからである。

「恵理は私たちの期待の星なんだから。われわれに輝く未来をお願いしますよ」

「もう、今からそんなにプレッシャーかけないでよ」

「私は恵理なら出来そうな気がするな。恵理を子供の時から見てるからね。恵理はほんとうに正義感の強い子だった。小学生の頃、よくいじめっ子たちにいじめられている男の子を助けてたじゃない」

 裕子と私は小学校入学当時からの友達であった。だから誰よりも私のことをよく知っていた。

「ところで話は変わるんだけど、今度の土曜日の夜、合コンしない?」裕子がいきいきした口調でいう。

「今度の土曜・・うーん、そうだなあ」私は煮え切らない返事をする。

「もう自由な時間もあとわずかなんだし、今のうちに人生謳歌しなくちゃ」

「そうねえ、で、何人で?」

「いやね、この前に弘美から誘い受けたのよ。彼女ったらつい最近彼氏と別れたでしょ。焦ってるみたいね。それで私たち二人を誘ってきたわけ。相手三人も大学四回生らしいわよ」

 つまり三対三の合コンらしい。とりあえず私も暇だったので了解した。

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