第一章

しかし日本は戦争を終結させるどころかますます泥沼に突き進んでいるように思えた。ニュースできくもおぞましい南京の大虐殺事件。いったいこの国はどこに向かって突き進んでいるのだろうか。それほど戦って勝つことがすばらしい事なのか。

四年後、日本は真珠湾攻撃を行い大国アメリカに宣戦布告してしまった。

国家が圧倒的な権威をもち民間を規制する。ビジネスもやりにくくなったが、国民は自由な思想をもつことも許されなくなった。そして年を経るごとに日本の戦況は不利となっていった。大国に戦いを挑むなど無謀なことだと思っていた。だが、今の日本ではそんなことを口に出しては言えぬ。しかし国民の大半は国家に洗脳され必ず勝てると思い込んでいる。いや、思い込まされているのかもしれない。私にはそれが滑稽に思える。

長男の正道は十四歳になり毎日軍需工場に駆り出されていた。こんな時代に生まれたがゆえ勉強もろくに出来ないのを不憫に思うが、本人は日本の為に戦える強い兵士になることを望んでいるようだった。

「俺、少年兵予備軍に志願したいと思ってるんだ」

「少年兵だなんてお母さんは反対よ。もし正道が死んだりしたらお母さんどうやって生きていけばいいの」

「今は皆がお国の為に働かなくちゃいけないんだ。日本が勝つ日が来るまで」

「そんなこといったって・・・」

百合子は言葉を詰まらせ涙ぐむ。いつもの夕食時の会話だ。

「父さんはどう思うの? 僕のいってることは間違っていないよね」

「正道、おまえがこの国のことを思っているのはわかるんだ。でもな。父さんは人が互いに殺し合うような方法で事を解決するというのは間違っていると思う。きっと他によいやり方がある筈だ」

「父さんのいってることはおかしいよ。みんな食べるものもなくて我慢して戦ってるんじゃないか。勝つために。父さんは非国民だ」

「正道! お父さんになんて言い方するの」

百合子が声を荒げる。正道はそのまま自分の部屋にこもってしまった。

「ひどい時代になったものね。成人していない子供までがあんなこと言うんだから」

「こんな戦争はすぐに終わる。また昔の生活に戻れるさ」

「そうね。必ずそうなるわね」

しかし日に日に戦況は悪化していった。アメリカの爆撃機は頻繁に東京を空襲した。その度に狭い防空壕に身を隠す。夜も落ち着いて寝れない日々が続いた。こんな日々がいったいいつまで続くのだろうか。皆もう限界に近い状態になりつつあった。だが国民はひたすら耐えるしかなかった。

そして戦争は昭和二十年八月十五日あっけなく終わってしまった。 

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