第18話 苦手意識
「昼間の仕事探したら?」
恵美子が食事の支度をしながら話す・
「・・・・・」
「夜一人で寝付かれないので、あなたの車置いて行って」
恵美子の軽四輪で仕事に行って欲しいという。
車庫に主人の車がないのが不安らしい。
妻の車で行っても良いのだが、あいにくナビがない。
慎三の車であれば、ナビで夜中の会館移動があっても
対応出来る。
従って妻の車で通うのは無理だ。
どうも、妻も睡眠不足らしい。
夫の居ない夜が不安らしい。
慎三の単身赴任中は、息子達も居たし
愛犬のリッキーもいたので賑やかだったが
今はもう誰もいない。
あまり合わない主人でも居てくれた方がましと
いう所か・・・・・。
別のバイトを探すつもりもなかった。
もうこの年齢になると、働き口はそうそうないのだ。
それと、この仕事は、人間の最後に寄り添う部分が
あって、銭金ではない遣り甲斐も感じられる。
そこに慎三は、遣り甲斐を求めていた。
やがて、いや近い内には自分も送られる側になる。
そこから日常を見直すのは悪いことではない。
ご遺族の中には、ほんとの潔さを感じさせる御仁も居て
慎三が学ぶところ大であった。
この仕事には他の仕事にない良さがある。
それは、間違いなかった。
内勤社員の内藤君は、慎三より20歳若いが
正社員である。
笑顔の可愛い子であるが、結構憎まれ口もたたく。
最近は慎三にもなついて来て
背後から「ワッ!」とか言って脅かす時もある。
先日も事務所の流し台近くで立っていた慎三に
内藤君が背後から近づき、慎三の方を両手で
「ワッ!」とやった。
瞬間、慎三は、無意識に合気道の技で内藤君の
片手を封じた。
「アイテッテエーー」
押さえられた内藤君に
「僕は合気道の有段者、無意味な脅かしをすると
反射的にこうなるよ」
「へえーーーーっ、村木さんて凄いんやあ」
その夜本社に寄って帰る内藤君に
「お疲れ様 気をつけて」
声を掛けたら返ってきた言葉が
「村木さん ここの会館1番幽霊が出るとこですから」
彼はそう言って葬儀社のトラックに乗り込んだ。
「嫌なこと言うなあ」
慎三の言葉は届かなかった・・・。
今夜は1人宿直である。
建物は4階建でかなり大きく広い。
実は、慎三は霊とか幽霊とかに極めて弱かった・・・。
軽いめまいのようなものを感じながら、会館の巡視を始めた。
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