第19話 瀬戸の風

 この仕事に就いて、霊の恐さを思い知った。


いろんなレベルの霊が居て、ひとつ対応を誤ると

大変な事になることも知った。


世の中理屈ではない。


科学だけで推し量れるものではない。


 同時に 生きてる者の恐さも知った。

生きてる人間の恐さは、死んだ人間の霊とは

また違う。

似てるけれどもどこかが違う・・。


 切実なのである。


この厳しい娑婆を生き抜かねばならない生の人間の

思いや言動は、ある意味実にシビアである。


時には他人を潰してでも、のしあがろうと

迫って来る。


 それが恐いからと言って家に閉じこもって

いる訳にもいかない。


働かなければ食べては行けないのだ。


 人並みに、霊障のしごきは受けた。


出勤が恐くもなった。


それでも何とかしのいで勤務した。


続けられる理由はただひとつ。


他人様の人生の幕引きを手伝うこと。

出来る限りの務めを果たす心意気。


それしかないのだ。


 俗に「終わり良ければ全て良し」と言う諺もある。


当たり前だが何事も、終わりはものすごく大切である。


 仮に悲惨な人生であったとしても

穏やかな気持ちで締め括れたら

多少は救われるのではなかろうか・・・・。


 その終わりを飾る仕事が現在の勤務だ。


やれる所までやるぞ!


 誰にわかってもらうでなく

かけがえのないお互いの生命

他人様も、自分も共通の世界!


ううん? これは・・・・・・・悟り?


 今朝の瀬戸内海の風は

いつになく、優しく優しく感じられた・・・・・。


               終わり




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