第16話 愛妻弁当

 勤務する会館が毎日変わる。

寝る場所が毎晩違う。

これは結構ストレスである。


 人間、寝よう寝ようと努力すればするほど眠れないらしい。

いっそ起きていれば朝が楽か?と起きていたが

これは、かなりきつい。

帰りの運転は、フラフラである。


 通夜が2件3件と続く、とかなり忙しい。

「今年は件数が多い」と、皆がこぼす。

寒の戻りが何度も来て、どうやら生身の人間を苦しめて

いるらしい。

しかも、自分とほぼ同じくらいの年齢の方が

夜中に搬入されて来る。

人生観は、変わらざるを得ない・・・・。


 あまり怒らなくなったのは有り難いが

慎三が元気をなくしていくのを見るのが

辛いな・・恵美子は思った。


食事とか、自分が気をつけてあげなければ・・。


黙々と、真面目に働きに出る慎三を見ているうちに

何やら申し訳ないような気がしてきた。

もう40年以上、どこにも働きに出ない人生を過ごしてきたが

それも慎三のお陰である。


 こまめに食事を作り始めた恵美子に

慎三も気がついて、お互いが歩み寄る

毎日となって来た。


 仕事は相変わらずきついが、少し慣れて来たし

妻の態度の変化は、ありがたいことであった。


既成のおかず類でなく、恵美子の手作りの

献立が増えて来た。


「お弁当 持って行く?」

なんと、出掛けには、袋に入れたお弁当を

持たしてくれるようになった。


職場で、ひと段落つけた時に、そっと弁当を開く。

野菜中心のおかずが細かく盛り付けてある。


ご飯は、時におむすびになっていたり

あまり食欲がなくても、弁当ならいけるという

感じがする。

「ひえーっ、村木さん、愛妻弁当?羨ましい!」

冷やかす若い社員も顔なじみが増えてきて

慎三の睡眠不足もなんとか乗り切れそうな雰囲気である。

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