第14話 この世と別れる米粒

 安置している故人に備えるご飯。

お茶碗についで、きれいに盛ってお供えをする。

朝、それを暖かいご飯と入れ替える。

若い社員はまだ出勤して来ないので

その仕事は、宿直者が代行する。


 声掛けをしてご遺族の了解をいただき

座して瞑目、合掌をする。

下げて来たご飯を和紙に包む。

お茶碗を洗う。

お米がこびりついて、硬い・・。

丁寧に洗ってツルツルの状態にする。

しがみついていたお米がお茶碗から

離れる・・・。

最後の米粒が流し台を流れて行く。

水は出しっぱなしであるが

米粒がなかなか流れず動かない。

それは、恰もこの世からの離脱を

拒否している故人の意思のように思える・・・・。


 再び座敷の故人にお供えをして部屋を出る。

このご遺体も今日のうちに火葬にされる・・・。

今日の故人は、42歳の男性と

58歳の女性であった。

いろんな事情があるだろうがむごいと思う。

命というものを考えさせられる夜から早朝の勤務。


 9時に会館を出て車に乗り込むと

一気に眠たくなる。

朝の通勤ラッシュの残る街の中心部を抜けて

やっと自宅に帰りつく。


玄関に見慣れない婦人靴。

「おはようございます。お邪魔してます」

女房の学生時代の徳島の友人だ。

昨夜から来てたらしい。


「ごはんにする?」

聞かれたが曖昧に答えて

シャワーを浴びた。

あまり食欲がない。

そのまま自室に入りベッドに潜り込んだ。

花冷えの朝、冷たい布団が、妙に心地良い。


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