第3話 面接

  履歴書を眺めながら、矢継ぎ早に質問が飛んで来る。

「保険会社にお勤めだったんですね。しんどかったでしょう?」

「はあ、まあ何とか・・・」

「それにしてもいろんな所に転勤されて、凄いですねえ」

「はあ、まあ・・」

「へえーっ、武道の経験も長いんですねえ」

「はい、好きなもんで。剣道は、還暦になってから始めました」

「合気道も長いですねえ」

「合気道と剣道の共通するものに惹かれて

 両方をコツコツやっています」


「そうなんですかあ。ところで、仕事の方ですが」

鳴瀬さんが、仕事の概要を説明してくれる。

何やら既に採用確定のような口ぶりである。


 夕方5時に葬儀会館に入る。

お通夜の作業補佐をする。

控え室のご遺族の世話をする。

ご遺族の食事会の準備と片付け。

故人のお線香とかろうそくの管理。

会館内の掃除。

夜中に直接運び込まれるご遺体の運搬と安置。

翌朝の清掃と安置されている周りの雑務。

告別式の準備。

ご遺族の部屋の清掃。等々。

「トイレの掃除は、ないですよね?」

「ありません。業者が居ますから、しなくていいです」

「求人チラシには、7時間は仮眠がとれるとありましたが」

「・・・夜中の搬入がなければ、可能かと・・・」

 ・・・やっぱり・・寝れそうにないな・・・・。

「丁度明日の夜、村木さんのお近くの会館でお通夜が1件入っています。

 試しに宿直を体験してみてください」

・・・・・・・。

「いきなり初日から一人で対応ですか?」

「いえいえ、宿直の者がおりますので、ちゃんと付き添って

 仕事をご説明します」

「はあ・・・・」

「まあ、いずれにしても、形式ですが上の者に村木さんの経歴を

見せて内定をもらいます。必ずもらえますから安心してください。

その上で明日のお昼には、電話を差し上げますので

現場に向かってください」

「はあ・・・」

何やらバタバタと決まってしまった感じで

面接は終了した。

どうやら即決で採用のようだ。


 帰り道、運転しながら考えた。

果たして自分で勤まるのだろうか・・・。

どんな人達が勤めているのだろうか?


 全国12ケ所もの支店を転勤した慎三でも

知らない所の不安はあるもので。

まあ、ちょっとやってみて

無理なら早めにやめさせてもらおう。

そう思った。


17時から入り翌朝9時まで勤務で、7200円の日給制である。

1ヶ月分を翌月10日に口座振込みしてくれる。


県下19ヶ所の会館を次々替わりながらの夜勤である。

委託引き受けなので、自宅からの交通費も出ないし

社会保険もなし。


まあ、条件が良い勤務が66歳の自分などに

あるはずがないので、これでもまだ、ましな方である。

月に10回ほどの勤務でもいいとはっきり約束してもらったので

まあ、頑張って勤めてみよう。


 車の窓を思い切り全開にすると瀬戸内海の早春の風がビューッと

飛び込んで来て、慎三は、何となく元気になった。

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