第2話 面接前のアクシデント

 どこかで道を尋ねるかと考えながら走っていると、すぐ左手の道の向こうに

何やら変わった紫色のビルがチラッと見えた。

ああー,どうやらあそこあたりかな?

国道に出ると、左手にそのビルがあり、前にお客様駐車場がある。

ちゃんと看板にアイ葬儀社と書かれてある。


 中に入り、一番手前の空いているドアの中を覗いてみると

花とか、しきびとかが、所狭しとバケツに並べられている。

「おはようございます」

無人の倉庫内に声掛けをしたら、若い男性がすぐに出て来てくれた。

「すみません お忙しい時に。・・アイ葬儀社さんの本社はこちらでしょうか?」

「はいそうですが、どなたをお尋ねで?」

「はい、鳴瀬さんに10時にお約束いただいております」

「ああ、そうですか。鳴瀬は、2階におります。ご案内しましょうか?」

「いえ、まだ時間が少し早いので車で待たせていただきます。」

「はい、ああ駐車場、ああ、あそこならいいですよ」

「はい、ありがとうございました」

感じの良い若者の応対であった。

何やら少し安心した。


 2階に上がり総務課の中に入って行くと、隣の応接室に通された。

ドア側の椅子の横で立ったまま待機した。


しばらくすると、作業着姿の若者が現れて

「ここと違います。間違えています。成瀬は、別の社屋です」

「ええーっ?」

「ここから一旦国道に出て、Uターンして1kmくらい走ると

別館があります。そこに居ますので、すぐに向かってください」

ええーーっ、何と言うことだ・・・。

急いで、元来た道を戻ると国道沿いに大きな看板が見えた。

10時はとうに過ぎているが仕方がない。


 車を停めると正面玄関に黒いメガネを掛けた大きな男の人が立っている。

「すみません。申し訳ございません」

平身低頭で挨拶をした。

「わかりにくかったでしょう。どうぞお入りください」


 会館の中はガランとして静かであった。

葬儀とかが行われていないのだろう。

人影すら見えない。

建物は大きいのに、無人の感じというのは、いささか不気味な感じである。


応接室というか、遺族控え室というか

そんな感じの部屋で、採用面接が始まった。

まずは、何はともあれ、無事にたどり着いたことで

ひと安心の慎三であった。




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