第31話 「人探し」

 

 リアちゃんから薬草採取の協力を仰がれた翌日。

 僕たちは朝早くから治療院を出て、ノホホ村の馬車乗り場にやってきていた。

 昨日と違って空は晴れ渡っている。

 

 昨夜は話を聞いた後、すぐに僕らは眠りについた。

 長旅をして、さらに雨の中で待たされていたリアちゃんが、かなりお疲れの様子だったので、早めに寝かせてあげたかったのだ。

 そしてプランがぬいぐるみを抱くようにリアちゃんを連れてベッドに潜ると、すぐに二人の寝息が聞こえてきた。

 僕もソファに寝そべってすぐに眠りにつく。

 

 そして朝。

 約束通り依頼を達成するために、僕らはボウボウ大陸を目指すことにした。

 手順の整理をすると、まず最初にノホホ村から馬車に乗る。

 そしてガヤヤの町に到着後、大陸まで瞬間移動の魔法で飛ばしてくれる飛ばし屋さんを見つける。

 長い依頼になるかと思ったが、意外にも短いものになりそうだ。

 

 いよいよ出発。

 馬車に乗り込み、いざガヤヤの町へ。

 ゆらゆらゆら。

 

 

 

 丸一日掛かるというのは真だったらしく、朝早くに出発して、翌朝にガヤヤの町に到着した。

 

「やってきましたッス、ガヤヤの町!」

 

「おぉ、そうだな」

 

 賑わう町の様子を眺めて、僕らはそう言い合う。

 穏やかなノホホ村とは違ってすごい活気だ。

 建物も高層のものが多いし。

 それに少し歩いただけで、人と肩が触れる。

 物凄い人ごみだ。

 

 ちらりと隣を窺うと、プランが興味津々に町の様子を眺めていた。

 ノホホ村とは違う活気に当てられて、テンションが上がっているのかもしれない。

 フードを被っているところを見ると、まだ自分が盗賊だったことを気にしている様子だ。

 ……ていうか。

 

「お前までついて来る必要なかっただろ」

 

「えっ、またそれ言っちゃうんスか?」

 

 ガヤヤの町の正門近くで、本当に今さらなことを言う。

 当然のようについて来ていたプランに、違和感が湧いてこなかったのだ。

 でも今考えると、やっぱりこいつまで来る必要なかっただろ。

 

「一応治療院に留守中の札は掛けておいたし、村のみんなには事前に治療院を空けることを伝えておいたけど、お前が留守番してればそれでよかったじゃんか。三日くらい空けることになるだろうし」

 

「そ、それはそうッスけど、アタシもリアちゃんのために何かお手伝いをしてあげたかったんス。それに前にも言いましたけど、もしアタシがお留守番中に怪我人が来たとしたら、治してあげることができないんスよ。またパナシアさんに頼むことだってできませんし。アタシだけ残って治療院を開いていても、変に期待させてしまうだけ悪い気がしますッス」

 

「まあ、それはそうかもしんないけど」

 

 納得いかないという顔を滲ませていると、不意にプランが僅かに微笑んで続けた。

 

「それにノンさん……」

 

「……?」

 

「小さい女の子と二人っきりでよかったんスか? アタシがいた方が、何かといいんじゃないッスか?」

 

「……うん、まあ、それもそうですね」

 

 確かに少女と二人っきりで旅ってのもいただけない。

 色々と問題もあるだろうし。

 それにプランを一人で治療院に置いておくなんて、何をされるかわかったもんじゃないから、こうして連れてきて正解だったのかもな。

 

 そう思いながら僕は、ふとリアちゃんに目を向ける。

 すると彼女はプランの真似をするように、フードを目深まで被って俯いていた。

 まるで人の視線を恐れるように。

 元盗賊のプランはわかるけど、なんでリアちゃんまで?

 人見知りするタイプだとは思ってたけど。

 

 ……まあいいか。

 

「んじゃ、改めて三人で行くか」

 

「そうッスね。頑張りましょうッス」

 

 そんな掛け声と共に、僕らはようやく飛ばし屋さん探しを開始した。

 だが……

 

「それにしても……」

 

 僕はおもむろに町の風景を一望する。

 絶えることのない人ごみ。

 様々な音が混ざり合った喧騒。

 ひとたびあの人波に揉まれれば、確実に迷子になることだろう。

 こんな中から、お噂の飛ばし屋さんを……

 

「……どうやって探したもんかな」

 

「ふふ~ん……」

 

「……んだよプラン。なんでそんなに胸張って嬉しそうにしてるんだよ」

 

 突然自信ありげに鼻を鳴らしたプラン。

 最近度々この姿を目にするようになったが、今回も相変わらず慎ましいことなんぞ忘れて大きく胸を張っている。

 それに対して眉を寄せていると、彼女はドンッと胸を叩いて宣言した。

 

「ここはさっそくアタシの出番ッスね! 任せておいてくださいッス!」

 

「……?」

 

 いまだに疑問符を浮かべる僕の前で、プランはカッと目を見開く。

 次いで両耳の裏に手を当てると、眼前の人ごみにじっと集中し始めた。

 目と耳を両立させ、視力と聴力の限りを尽くしている。

 やがて二十秒ほど経ったあたりで、プランがこちらを振り向いて言った。

 

「どうやらこの広場にはいないみたいッスね。それと、今ちらっと耳にした限りですと、現在は東にある噴水広場にいるかもしれないとのことッス。珍しい天職をお持ちの方なら、今みたいに調べればすぐにわかると思うんで、この調子で探していきましょうッス」

 

「……」

 

 口早に捲し立てるプランを見て、思わず僕は呆然とした。

 そういえばこいつの天職は『大盗賊』だったな。

 得意としている『観察』スキルは、対象を二十秒ほど視界に収めることで、その相手の弱点やステータスを盗み見ることができるのだ。

 僕の『診察』スキルと違って生命力や心身状態を確認することはできないが、相手を見るだけで発動できるのでこういう時に大いに役に立つ。

 おまけに聞き耳スキルも併用して、新たな情報を聞き出すとは。

 やっぱり、意外と使えるんだよなこいつ。

 

 密かにそう思い、三度プランを連れてきてよかったと心を改める僕だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る