第28話 彼女の絵が完成する頃には

「彼女の絵が完成する頃には」


心地よい風に連れられて

人混みに身を預けてみる


少しずつ肌寒くなってきた

家族連れで賑わう街の風景

どの瞬間を切り出しても笑顔

まるで時が止まったようだ


薄紅色の樹々が緑に混じって

一面を塗り変えようと虎視眈々

小鳥達はチュンチュンチュン

何か嬉しいことでもあったのか?

伸びをすれば抜けるような青、青、青

静寂など無縁な日曜日の午後


彼女はおもむろにカンヴァスを取り出す


木の葉が風に吹かれて転げてる

カラカラカラと流転の人生

僕達を置いてきぼりにした

ちょっとした罪悪感も小休止

まとわりつく蝿を叩き落として

あまりにも無慈悲な自分を笑う


見知らぬ人が早足で彼女を通り越す

きっと彼も彼女のことを知らない

そして彼女は誰も知らないんだ

それでも彼女は人間を愛する

会話もない、視線も合わせない

コミュニケーションは暗黙の了解

街のエコシステムは無限の無関心

ただひたむきにカンヴァスに向かう

モチーフはきっと幸せの一断面


このまま雲の階段を登ろう

高みに登れば登るほど

堕ちたときの衝撃は強くなる

それでも彼女は高みを目指す

僕達の手が届かない遥か遠くへ


街のオアシスで息継ぎしながら

僕はもうひとりの自分を生きる

48時間の今日を駆け抜け

表情豊かな街を描写する


あの絵が完成する頃に桜が咲くかもしれない


時は人を待たずして永遠を紡ぐ

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