第27話 水のカタチ
「水のカタチ」
時は廻り、陽はまた射すだろう
登り切ったその先に水があふれる
頼りない自信を煽って
限りない生命をつなぐ
それでも君は言っていた
こわがらなくていいよ
ここより暖かい場所を探そう
帰り時刻を気にせぬ少女たちが
季節外れの花火に興じて
過ぎ去った夏を懐かしむ
もう、
時は終わりに近づくけれど
それはまた再び訪れることを
ひととき忘れているだけなのだ
ふと耳を澄ませば
川の流れが絶えず響く
耳元まで水音が届いて
訳もなく安堵するのさ
まだ何も終わることはないと
大切が何かを思ったとき
ふるさとの記憶が甦る
霧深き朝の空気
真っ白く低い雲
空を分かつ山々の稜線
街灯よりも光り輝く星々
数え切れない青春の断面を切り取って
僕はひとり感傷に浸っては
もう甦らない日々に別れを告げ
まだ形を持たない明日を待ちわびる
すべてが静止したまま
時も水も止まったまま
僕は大人になった
二十年の歳月は僕という形をつくった
川の流れが好きだった
空行く雲が好きだった
透き通る水が好きだった
包み込む風が好きだった
少女たちの若さに純粋に嫉妬する
今、僕は僕で満足しているかい
老いも若きも
夜は夜で当たり前に続く
都会のこの水の一滴も
ふるさとの大河の一滴も
同じようで違うカタチをもつ
水の雫に自分を重ねて
不器用な自分を感じた
まっさらな水になりたい
水の勢いに流れ、流され
今日までふらりふらりと生きてきた
終着点はどこかにあると思っていた
水がカタチを持たないように
時もカタチを持たないのだ
まずはこの夜を越えていこう
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