第26話 赤い涙

『赤い涙』


火星は光っている

赤く、赤く、妖しい輝き


水星も光っている

木星も光っている

星々の光るこの夜空に

誰かの涙が乱反射している

人々の喜怒哀楽の投影

それが夜空の星粒だと

大人になってようやく気付いた

僕の涙が涸れたときにやっと


数え切れない喜びと悲しみが

火星をはじめ、恒星を構成する

僕は夜空を見上げながら

いつもより赤い星色に想いを馳せる


星屑の欠片は地上の衆生の生き様だ


僕は想像の遥か彼方で

夜空が演じる人生劇場を堪能する


振り返ると涙を流した少年が

天を目掛けて走り出していた

彼の涙は火星に届くのだろうか

僕は天空に視線を遣りながら

不意に瞼に滲んだ雫を指で拭う


空が白む

火星が消える

星々は輝きを失う

そうやって朝を迎えて

人々は新たな一日を謳歌する


あゝ、今宵も誰かの涙が

夜空を埋め尽くすことだろう

僕は嬉し涙が悔し涙に勝る星空を願い

まだ夜が明けたばかりの淡い青空を見上げた

そこには我関せずと分厚い雲が横たわっていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る