第25話 風が泣くとき

『風が泣くとき』


風が泣く声が聞こえる


 絶やすことなく

 紡いできた糸は

 ほつれることなく

 長々と結ばれてきた


 それがどうだ、今は

 プツリと切れた血管のよう


 遅すぎた迎えは不要だと

 強がり言って誤魔化す君

 己のすべてが傲慢すぎて

 恥じ入りながら引き返す


風が泣く声が聞こえる


 三年前に胸元に抱えた遺影

 艶っぽい襟足を見つめては

 終点に至る道程を振り返る

 いつもその場限りの気遣い

 至らぬ業を神々に懺悔する


 新しい涙がドクドクと

 溢れては次々に零れ落ちて

 天地の際までグングンと広がり

 もはや収拾がつかないところにある


 命の欠片はこんなところに落ちていない!

 誰かが小さな胸で叫んでいる


風が泣く声が聞こえる


 ふたりが向き合っていた日常は幻想で

 真逆には現実という虚構がそびえ立つ

 ならば、ひとしきり泣いて、泣いて

 今や消え去ろうとする己の躯を

 自ずから丁寧に葬ってしまおう


 空が翳り、陽が傾いてきた

 君が隣にいない三度目の秋の日

 これ以上哀しいことはないのだと

 赦しを得るのはいつ頃のことだろう


風が泣く声が聞こえる


アホウドリが二度、三度と啼いた

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