第14話 不安定な人間存在
「不安定な人間存在」
若輩者の前に海原が洋々と拡がる
あれは二十年前の初夏だった
彼の魂が消えたのはいつの日だったか
残った身体を支配する邪気に蝕まれ
あと何日、あと何時間
今の自分でいられるのかわからない
そもそも、今の自分とは何なのか?
死に至る病に憑りつかれ
これが最期の痛みだと何度確信したことか
薬漬けにされたその肉体は
もはや今の彼でも過去の彼でもない
※
何が救いか判らず天を恨みもした
このまま終わることも既に覚悟している
あと一日、あと一時間ほしい
虚空に向けて訴えているうちに
いつの間にか彼は大人になってしまった
この世の悲哀もある程度知り
自分より苦しんでいる者の存在を当然知りつつも
自らを守ることに汲々しながら
自分が生きる意義を探してみたり
安定とは程遠いところにいる人間存在
※
出来損ないの彼はいかにも人間的だ
そう思い始めたのはいつの日だったか
友を持ち、家族に支えられ
何となく人生なるものを歩んでいる
すべてを素直に受け容れているではないか
だから、いつ逝くことも覚悟している
支え合いの日々ですら
いつかその胸の鼓動を全否定する
それがきっと最期の痛みだろう
※
二十年前の若輩者に語りかけたい
洋々と広がる海原を遠くに見遣りながら
君に伝えたいことがあるんだ
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