第3話 過ぎゆく時を知らず

「過ぎゆく時を知らず」


傷を負った一羽の水鳥

騙しだまし生きる人生の中で

僕は何かを見失ってしまった

決して消えぬ痛みとともに


誰にでもわかるだろう

生きることは容易くない


過ぎゆく時を知らず無邪気に生きれば

いつまでも永遠の子供でいられるのに


僕は浜辺から遠くの海をいつまでも眺めた

ポケットの携帯電話をオフにして、誰からの連絡も絶って


鮮明に甦る

迫りくる漆黒の海、海、海


不思議と怖さはない、もうそこまで足が向いているから

消え去っても仕方がないちっぽけな存在

すべてが終わるはずだった、二十年前のあのとき

誰が、何故、繋ぎとめたのだろう


《歩を進めるにつれて水面が脛、膝、腰へと上がってきた。水圧に押されて、だんだん思うがままに足を動かせなくなる。水が遂に胸の高さまで来た。俺は視線の先に見える青空を見た。もうこの青を二度と見ることはないと思った。そして目を瞑り、穏やかだがずっしりと重みのある水流に負けないよう、海底をしっかり足の指で掴んで脚をゆっくりと前に進める。既に思考は不可逆であった。》


あれから時は遥か過ぎゆき

生に対して冒涜を働いた僕は

もう大人になってしまった

随分と年老いてしまった

いつからか負った傷の癒えぬままに

いつまで生を紡ぐのだろう


過ぎゆく時を知る僕は

衰え、劣化し、腐敗して

世界の素晴らしさを知りながらも

この人生からの退場を待つばかり

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