第11話

 ふたりは最初に落ちてきた穴を、フンババにおんぶされて登っていく。落ちてきたときはずいぶんと長いもののように感じられたが、少女は帰り道のあいだ眠っていたので、あっという間に到着したことに驚いていた。道中にあったポスターは祖母が貼ったものだったが、なぜそのような場所に貼ったのかは、今を持ってしても、謎のままである。

 二人が部屋に着くと、またね、とフンババは気さくに手を振って帰って行った。そして、クローゼットの暗闇は消えてなくなり、もとの底板が戻ってきた。もう誰もあちら側の世界に行くことはできなくなったのである。

「本当に良かったのかな、おばあさんを生贄にして」

 クローゼットを見つめたままそう呟いた真奈美は、「一日フンババ族長」のたすきをつけたままだった。夢のようなできごとではあったけれど、彼女らにとってこれは確かな現実だったのである。祖母はあの世界で死に、二度と帰ってはこない。

二人がこの家に着いたとき、真上にあった太陽はすでに傾いて茜色になっていた。

黄昏時だ。

自分たちが選択したことを気に病んでいるようすの真奈美を安心させるため、少女は自分が祖母を差し出した理由を教えた。それは、じつに少女らしい発想といえる。

「大丈夫だって。教会に行ってお金はらえば生き返るでしょ」

 それを聞いた真奈美は一筋の涙を流し、少女の頭を抱え込むようにして抱きしめた。柔らかな胸の感触は少女を安心させ、甘えん坊にした。

「どうしたの? もしかして、お金かかる? お祖母ちゃんってレベル高かったの?」

「ううん、そうじゃない。そうじゃないんだよ」

 真奈美は自分が泣いているくせに、ひたすら少女を慰めた。

人が生き返らないことを知らぬ少女は自身の過ちにも、真奈美が悲しんでいる理由にも気がつくことはない。

 ただ、自分を撫でる真奈美の手が気持ちいい。そう思いながら静かに眠りに落ちた。

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教会に行こう 音水薫 @k-otomiju

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