フェイズ19 アポロジー&サーチ
「うっわぁ……何これ、迷路じゃん。」
軍病院から脱出、いや正確には病室から姿を消したメイ・ルーシェは病院内部の地図を見て立ちすくんでいた。
「地道に道を探してる暇なんてないし…かといって飛び降りるのは論外だし…。」
とはいえ、このままここで立ち往生して人に会ってしまっては目も当てられないので、一先ず彼女は近くにあったダクトの中に忍び込んだ。
「(……懐かしいって言うほど前の事じゃないか。)」
お世辞にも彼女の人生は順風満帆などと呼べるものではなかったが、それでも彼女にとっては比較的安定した人生を送っていた。
…しかし今はそのほとんどが狂い始めている。
「(逃げ切れたのかなぁ…彼。)」
勿論彼女はその「彼」があの後別の組織に捕まり、別の理由で死刑宣告され、どういう訳か彼女を追う立場になっている事を知らない。
そしてその彼は現在、奇遇にもメイと同じ悩みを抱えていた。
「…何だろう。今なら霧崎さんの言ってた事分かる気がする。いや何この地図?」
第5部隊の面々から渡された通信機とその中に入っていた軍病院の地図を見ながら、竜胆は不満そうに呟いた。
と言うか彼自身、今回の件については乗り気ではない。
どういう経緯があって彼女がこの軍病院にいるのかはさっぱりだが、盗人という彼女の立場を考えれば軍の施設に身を置きたくない理由も納得いく。
幾度も彼女に助けられた竜胆の身としては何事もなく彼女にここから逃げてもらうに越したことはないのだが…
「(下手に動けばまーた牢獄に逆戻りだしな。見つけないのが1番なんだけど…)」
「おーーい!聞こえてますかー!」
「はっ!?えっどこ?どこから?」
自身の微妙な立場に頭を抱え、周りを全く見ていなかった竜胆は突然の呼びかけに反応出来ず慌てふためく形となってしまった。
「ここ!ここっす!」
「ああー…うん少し遠い。」
声の主はおよそ5m程離れた廊下に竜胆と向かい合って立っていた。更に彼らの間には吹き抜けという構造により、大きな空間があった。
「松山さんっすよね!」
「そうですけども!少し、遠くないですか!」
「じゃあ俺そっちに行きます!」
「いや、ここら辺の廊下えらい入り組んでてこっち来るのにも……ってええ…?」
少年に余計な回り道をさせないよう、気遣った竜胆だったが、そんな彼の考えなどお構い無しに少年は大きく跳躍し竜胆側の廊下に着地した。
「改めてこんちわッス。第5部隊隊員の江月っす。よろしくっす。」
赤いフード付きのパーカーに身を包んだその少年は竜胆に対して手を差し出してきた。
癖なのか、意図してやってるのかは分からないが、彼の話し方に妙な違和感を覚えながらも竜胆は彼の手を握る。
「いや俺の方こそほんとお世話になると思うんで…お願いします!」
心無しか竜胆は少しばかり落ち着いた気分になった。それもそのはず今まで会ってきた第5部隊の面々の中で彼は比較的まともな人間なのではないかと思ったからだ。
「じゃあ早速メイ・ルーシェの行方を追いたいんすけど…その前に1つやんないといけない事が。
………本っ当に!すんませんでしたーー!」
とんでもない声量による謝罪と恐ろしい速度で頭を下ろした江月の姿は竜胆から理解力を全て奪っていった。
「……………えっ?ちょっと待って?
分かんない、分かんないんだけどさ、とりあえず頭を上げて?本当に何も分かんないから。」
「最初に会った時、何の確認もせずいきなり殺そうとしてすみませんでしたッ!」
「殺っ…!?」
しかしながら無録の副作用なのか竜胆にはその時の記憶が残っていない。
だが江月はそんな事お構い無しに話を進めていく。
「結局誰も死なずに良かったですけど!
自分はそういうのきっちり精算しときたいっす!」
「いや、ちょっと待とう?
うん俺もう分かんない。何も覚えてないから何も分かんないのよ。」
「俺の事殺しかけた事もっすか?」
「……すまん、覚えてない。」
「じゃあ俺謝り損じゃないっすか! 」
「(謝り損ってとんでもないパワーワードだよなぁ…)」
「でも減るものでもないっすね。じゃ早速探しましょか。」
「ちょっと待って?探すったってこんなバカでかい建物のどこにいるとかそういうのは…」
「そんなの分かるわけないっすよ〜。
なんで…手当り次第探してきます!」
「うん、そんな気はした。そしてすっごいやる気でないよ俺。」
しかしそんな彼を置いて江月は既に走り出していた。生真面目で仕事熱心。竜胆が彼に抱いた印象だった。
「(でも探す振りくらいはしないとなぁ…)」
とはいえ彼のように手当り次第探すなど到底出来る訳もないので、ある程度見当をつけて探す必要はある。
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