フェイズ18 ファウンド&アンノウン
この場をどう誤魔化すかばかり考えていた竜胆にとって、自分が何年前から来たのかを問うその質問は完全に予想外だった。
しかしそんな彼をよそに今度はマーメイが会話に割り込んでくる。
「ちょっと待って、私が当てる!
えー……2000……いや、2100年くらい?
案外1900年代も有り得そうだけど…。
いや、やっぱ2100年代で!そんな感じの顔してるしね。」
「いや2100年代っぽい顔ってなんだよ?しかも外れてるし。」
彼女のマイペースさに飲まれまいと、すぐさま竜胆は否定する。何より、過去から来た事を隠さないでいいのならこれ以上尻込みする必要はない。堂々と2018年から来たと言えばいいだけの話だ。
まあ何故彼らがそんな事を知って、なおかつそれに対し全く疑念を持たないのかは不思議であるが。
「えっ外れ?
何でよ、そこは2100年代に生まれててよ。」
「無茶振りが過ぎるわ!
ていうか何でそう当たり前のように受け入れてんの?普通過去から人が来たなんて聞いても信じられないもんじゃないの?」
「まあ2回目だしな。人間案外慣れてくるもんだぜ?」
「2回…目…?」
「ああ、お前さん以外にもう1人過去から来た人間がいる。今はこの国にいないが…あいつの事だ。いつか会いに来るだろ。」
彼の言う「あいつ」が誰なのかは全くもって検討がつかないが、その「あいつ」が過去から来たというのなら話を聞かない理由はない。運が良ければ過去に戻る方法も…
「…ちょっと待って。」
霧崎を初めとした彼らの言う通りなら、過去から人が来るという事自体は既に2回起きてるという事になる。もしかしたら時空を行き来する技術はこの時代に確立されているのかもしれない。だとすれば…
「俺はこの時代に連れてこられたって事なのか?」
「その可能性なら既に考慮してる。しかし今現在、解明されている技術では人をタイムスリップさせる事は不可能だ。」
過去に帰る糸口を見つけ、興奮する竜胆をグレイは抑えながら状況を説明する。
「霧崎、彼に「不明技術」の事は話したのか?」
「あっ、悪い。忘れてた。」
「…そんな予感はしてた。」
不明…技術…?
竜胆は聞きなれない単語に妙な不安を覚える。少なくとも言葉の響き的にまともな技術ではなさそうだ。
「2852年の大災害は知ってるか?」
「日本が滅んだっていう地殻変動の事ですよね?」
「勿論、それ以外にも多くの国が滅ぶ羽目になった。結果として人類の人口は半分近くに減少することになった訳だか…人類はそれと共に多くの技術を失った。
これが不明技術だ。かなり大雑把な説明であるがな。」
勿論、技術を失ったと言われても当事者ではない竜胆にはどんな技術がどれだけ失われたのかなど想像つくはずもない。
しかし人類の半数近くを消し飛ばした大災害だ。技術を知る人もそれを残した記録も無くなってしまった事ぐらいは容易に想像できる。
「……もしかしてこの刀も」
「ああ。不明技術の
勿論、それも人の手には余るものだ。」
正直な話、竜胆は未だに刀が生きているという話を信じきれていない。 勿論彼らと自分との間に理解のカベがある事など竜胆は理解しているが、それでも今までの常識というのは中々捨てられないものである。
「じゃあこの刀は使い方も、壊し方も分からないって事なんですか?」
「残念ながらな。これに限らず不明技術のほとんどは分からないことの方が多い。」
「にも関わらず俺らのご先祖さまはそれを戦争に使い出した。馬鹿だと思わないか?」
「いやそれはもう馬鹿って言うか…アホっていうか…第一使い方すら分からないような兵器を何の為に?」
「「戦争に勝つ為に」だ。
例の大災害の後、ほとんどの国家は権力を失い滅びた。結局残ったの故郷を失った多くの人間と無駄に広い廃墟だけだ。
その後、世界各地で資源を巡って紛争が起こり果てには世界規模の戦争に発展した。
そんな中、不明技術に手を染め始める者が現れた。
それが今は我々に牙を剥いている訳だが……失礼。」
そう言い、グレイは無線機のような物を手に取る。誰かから連絡が来たのだろう。
「こちらグレイ。ああ、江月か。何があった?
………彼女が?………分かった、そこにこちらからも1人向かわせよう。早急な解決を期待する。」
「……?」
部外者である竜胆には何の話をしているかは全く分からなかったが、それでもよからぬ事が起きているのだというのは何となく分かっていた。
「藜の捕まえた少女が軍病院から逃亡した。」
「捕まえたとは人聞きが悪いな。そこは助けたと言ってくれよ。」
「……どちらにせよ面倒事を背負い込んだのには間違いない。
何にせよ、このまま放っておく訳にもいかない。今は江月が行方を追っているが、こちらからも1人向かわせる。
……松山、行けるか?」
「えっ、はっ?俺!?俺なんですか!?」
完全に会話の蚊帳の外にいると思い込んでいた竜胆は突然の指名に思わず取り乱してしまった。
「ま、今回は相手が相手だ。メイ・ルーシェ。
お前さんの知り合いだろ?」
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