フェイズ17 パーティ&リーダー
結局シロクマ(だと思われるもの)に運ばれる形で自分の事を待つという人がいるはずの部屋に足を踏み入れた竜胆だったが、最初に感じたのは妙な寒気だった。
「……はぁ。
局長、連れてきましたよ。それで……時間の方は…何というか……色々ありまして…。」
局長と呼ばれた男は視線をマーメイに合わせる。ただその表情は(生まれつきなのかもしれないが)非常に険しく、機嫌が悪いようにも見えた。
「構わん。」
「!?」
「たかが5分程度の遅れだ。そう報告するようなものでもない。」
「「5分程度」って……いつもなら「300秒もの時間を無駄にした」とか言って滅茶苦茶怒るじゃないですか!
……とうとう査問委員会から苦情が来たんですね。あっ、でも私は何も言ってないのでそこのところはあしからず。」
「……何を勘違いしてるかは知らないが、今の私にとって5分程度の遅れなど、どうでもいいという事だけの話だ。決して怒っているなどという事は無い。そこだけは勘違いしてもらっては困るな。」
「(やっぱ怒ってるな…。)」
「して、今クマが持ち上げているその少年が…。」
「ああ、松山竜胆だ。」
そしてクマの屈強な腕に支えられながら、竜胆は「局長」と向かい合う形でソファに座らされた。
「こうして会うのは初めてになるか。
私はディクソン・グレイだ。君の直属の上司だと思ってくれればいい。」
まあ「局長」という呼び名から彼が自分の上司であるというのは想像には難しくなかった。
「それで俺は松山―」
ここまで言いかけて、竜胆は自分の失態に気が付いた。ついさっき、彼等は自身の名前を言っていた。それもご丁寧にフルネームで。
となればここで再び名前を言うのは間抜け以外の何物でもないだろう。
「やっぱあの…何でもないっす。」
「そう気張らなくていい。私は勿論、ここにいる者達は皆、君の死刑に反対している。」
「まあ私はその超危険な刀が気になるっていう超個人的な理由だけどね。」
「……このように空気を読まない輩もいるがな。」
「一つだけ質問いいですか?
もし俺が突然あの刀に乗っ取られて、暴れ出したらその時は…」
「問答無用で死刑だな。いや、死刑の前にその場で駆逐されるか。」
それは竜胆にとって妙に聞き覚えのある声だった。そして…彼の予感は的中した。
「ま、十中八九俺が倒すだろうから安心して乗っ取られな。」
あの時、牢獄で会った男が立っていた。
「あっ、あの時のおっさんだ。」
「お兄さんだ。もう直さねぇからな。」
「……霧崎大尉。前日に三度に渡って、午後3時に集合するようにと忠告したにも関わらず平然と15分遅れ、平然と会話に入ってくる理由を説明してはくれないだろうか。」
「これは俺も常々思っているんだが…この建物、構造が複雑過ぎやしないか?方向音痴の隊長にはちと厳しいと思うんだが。
ま、過去の事なんてものはおいといて未来の話をするべきだ。そうだろ?竜胆少年。」
憤慨するグレイなど意にも介さず、霧崎と呼ばれた男は竜胆に同意を求めた。
「未来の話かどうかは分からないけど……俺がこれから何をやるべきなのかくらいは教えて欲しいっすね。」
「オーケー、なら早速本題に入りたい所だが……その前に一つだけ質問させてくれ。
お前さん、一体どこから来た?」
マズい。
直感でも何でもなく、ただ普通に竜胆はそう思った。
確かに軍に所属させる以上、その人間の出自は調べる必要があるだろう。その過程で彼の経歴の不自然さに気が付いたとしてもおかしくない。
「……この国のデーターベースは全部調べた。勿論、他国の戸籍もね。でも松山竜胆なんて名前はどこにもなかった。
有り得るの?こんなこと。」
彼女が調べたのだろうか、マーメイは怪訝そうな顔で竜胆に詰め寄る。
完全に疑いの目が掛けられている。だがそうそう本当の事を言う訳にもいかない。それこそ過去からタイムスリップしてきたなど言おうものなら、何て言われるか分かったもんじゃ無い。最悪、スパイ扱いされ牢獄に戻される可能性もある。
しかし次に霧崎が放つ言葉は彼にとって予想だにしないものだった。
「お前さんが生きていたのは何百年前だ?」
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