フェイズ16 ティーンエイジャー&ベアー
「あ"ーー肩痛てぇ…。」
拘束具から開放された竜胆は背伸びしながら、自分が自由の身になった事を改めて実感していた。
「じゃ、さっさと行こ。こんな陰気臭い場所いつまでもいたくないし。」
「いやその前にさ、あの刀回収したいんだけど…。」
そう言い竜胆はあの刀に指先を向けるが、それに呼応するかのように何故か刀は周りの鎖を千切り、彼の目の前に突き刺さった。
「……やっぱりなんでもない。」
「……私も何も見なかった事にする。」
階段。エレベーター。階段。時たま長い廊下。あの部屋を出てからは何度もこんな通路を繰り返していた。
「なあ、これってどこに向かってるんだ?」
「君の事を待ってる人の所。」
「俺を?」
ふと、頭の中に自分を助けてくれた少女の姿が思い浮かぶ。
……結局、彼女はどうなったのだろう。あの組織に連れ去られてしまったのだろうか。だとしたら彼女はもう……。
彼女を置いて行った時の事を思い出せば思い出す程、後悔が湧いてくる。
それでも過ぎた事は切り捨てていくしかない。………こう思い出してしまっている以上切り捨てられていないのだが。
「はい、着いたよ。
この先の部屋に君を待ってる人がいる。」
気が付けばおよそ50m程のガラス張りの壁の廊下を背に、巨大な洋風の扉の前に竜胆は立っていた。
ガラスから見える外の景色はとても見晴らしがよく、巨大な街を一望できるものだった。
だが彼には、それを楽しむほどの心の余裕は無かった。
「ほら、早く入りなよ。」
マーメイは竜胆の事などお構い無しにグイグイ背中を押してくる。
「ちょ、待てよ!まだ心の準備ってもんが…」
「君の準備なんか知ったこっちゃないの!
早く入れ〜!」
「そう急かすな、マーメイ。」
扉の前で謎の攻防戦を繰り広げていた2人に対し、何者かが声をかける。
だがその声の主を見た竜胆はその予想外のルックスに言葉を失った。
「…………えっ?」
そこには白いクマがスーツを着てそれがさも当たり前であるかのように立っていた。
勿論、違和感しかない。
「ああクマさんですか。」
「名前クマさんなの!?
そのままクマって呼んでるの!?」
「ああ、そうだ。俺はクマだ。」
「えっ、ほんとにクマ?
あだ名とかそういうんじゃなくてマジでクマなの!?」
「何だ、クマに何か恨みでもあるのか?」
「いや、ないよ?むしろ俺クマは好きな部類だけどさ、違うんだよ!そういう問題じゃないんだよ!」
「冗談だ。お前の言いたい事は分かる。
だが、この見た目はただの若気の至りだ。
気にしないでくれ。」
「若気の…至り。」
一応年齢的には若気に位置する竜胆だが、正直自分が死刑になる未来は想像できても、シロクマになる未来ばかりは想像できない。
ただ今はそれで納得するのが吉だと思い、彼は頷いた。
「そういうものなんすかね…。」
「……あっ、嘘!もう5分も過ぎてる!竜胆早く入って!」
先程とは異なり今度のマーメイは彼の服の袖を掴み、扉の先に運ぼうとする。
「ちょっ、やめろ馬鹿!服伸びる!伸びるから!」
「……ああ、そうか。お前があの…。
取り敢えずマーメイ、手を離してやれ。」
クマの言葉を受け、マーメイは渋々彼の服から手を離す。だが竜胆に落ち着く暇すら与えず、クマはおよそ65kgある竜胆の体を悠々と片手で持ち上げた。
「はっ?はっ?はっ!?
………これ、マジで…?」
「我々の上司は時間に厳しくてな。
悪いな、竜胆少年。少々手荒だが、こうやって運ばせてもらおう。」
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