フェイズ14 チェアー&プリズン
網膜を突き刺す様な
どうやらここは円柱型の部屋のようだ。それも、かなりの広さの。
そして意識がハッキリしてくると共に頭の中に1つの単語が浮かぶ。
「……無録…?」
「はここにはいない。
いるのは俺とお前、残念ながら男二人だけだ。泣けてくるだろ?」
「………!?
何だよッ…これ!」
腕は後ろに。足は歪な形をした椅子に縛り付けられている。
当然、それらを壊そうと暴れるがジャラジャラと鎖が音を立てるだけで何も起きはしない。
さっきまで意識が曖昧だったせいか、竜胆は目の前に立っていた男に気付くことが出来なかった。それはそれで妙な話だが。
「無駄だ。お前じゃそれは壊せねぇ。」
「!……あんた、誰だよ。」
「死刑囚に名乗る必要があるか?」
「なるほど、俺は晴れて処刑台へ一直線って訳か。結局なーんも変わらなかったな。
……なあおっさん。俺の事脱獄させてくれない?」
「お前さん、それ言う相手間違えてないか?」
「駄目元。どうせ死ぬなら出来る事全部やっとこうって思ったんだよ。」
「がめついな。」
「生きるのに懸命だって言ってくれよ。」
「……そんなに死ぬのが嫌か?」
「死ぬのが嫌で悪いのかよ。」
「いや、実に健康的な精神状態で羨ましい限りだ。病むのも時間の問題だろうがな。」
「…病む前に死刑になるけどな。」
「自分が何で死ぬのかすら分からないまま死ぬ気か?……冗談じゃないって顔してんな。
”刀”だよ。」
男が指を指した先にあったのは、何重のも鎖で拘束されている刀だった。
「”生きた刀”……俺らはアイツの事をそう呼んでいる。文字通りあの刀は生きてるからな。自我を持ち、欲を持ち、戦いを欲する化物だ。」
「オイ、待て待て待て!
刀が生きてる訳ないだろ?そんなの有り得な―」
「お前の常識は聞いてない。
本当にこの時代で生き抜きたいと思うなら下らない常識はとっとと捨てろ。
……いいな?」
男の気迫に圧倒され、渋々竜胆は首を縦に振る。
「じゃあ本題に入ろうか。お前が死刑になる事とあの刀に何の関連があるのか。
答えは単純。あの刀がお前を選んだからだ。
本来あの刀に選ばれた人間は殆どの場合、刀に乗っ取られ死んじまう。誰もこの刀の滅茶苦茶な戦い方について行けないからな。長く持っても1年そこいらだ。まるで呪いだろ?」
「じゃあ俺って…どう足掻いても一年後には…死ぬ?」
「俺の話聞いてたか?
一年後に死ぬのは「刀に乗っ取られた人間」だ。今のお前は乗っ取られてるか?」
「……乗っ取られていない。
でもこれから乗っ取られる可能性だってあるんじゃ…」
「勿論ある。というか覚えてないだけでお前は既に1回乗っ取られてんだよ。
にも関わらず今は正気に戻ってる。
分かるか?刀に乗っ取られて死んだ人間は全員、最初から最後まで正気に戻る事は無かったそうだ。」
「じゃあ俺が今正気に戻ってるのって…。」
「ああ。何千分の一のレアケースだ。
いや、下手したら何万分の一の可能性もあるな。運が良ければあの刀の力を思うがままに操る事が出来るかもしれない。
ま、ある種の天才ってやつだ。」
「別にそんな才能は求めてないんだよな…」
「が、そんな才能を快く思わない人間がいた。どんな国にもどんな組織にも用心深い…いわば保守的な人間ってのはいるもんだ。得てしてそういう人間ってのは上層部に食いこんでくる。
つまり、お前はそういう人間達に死刑にされかけているんだよ。「我々の手に負えない力は排除すべき」だとな。」
「随分と勝手な理論展開してんな。
でも……「そういう人間がいる」って事はそうじゃない人間もいるって事だろ?」
「例えば?」
「………あんたとか。」
「ご指名頂き光栄だな。ああそうだ。
俺はお前を生かすためにここに来た。
それでも半分賭けだったけどな。
…お前の目が覚めた時、お前があの刀に乗っ取られていたのなら俺は死刑を待たずにお前を殺していた。」
背筋が震えた。どうやら自分は想像以上のに綱渡りな状況に置かれていたらしい。いや、今思い返せばこの時代に来てから綱渡りでない状況の方が多かっただろう。
「正直言えばお前がこうやって自我を保っているのを確認するだけのつもりだった。
ただほんの少しお前に興味がわいた。あの刀が選んだ人間がどんなもんなのかってな。」
やっぱりこの男は何か知っている。自分の事だけでなく、あの刀についても何かしら知っているような話し方だ。
「それで?答えは出たのかよ。」
「いや。ただ一つ分かったのはお前が今まで俺が会ってきたどんな人間とも違うって事だ。
ま、今はそこから抜け出せるように祈っときな。
ああ、あと俺はおっさんじゃない。お兄さんだ。」
結局、男はその言葉を最後にその場を去っていった。
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