フェイズ13 トレード&スティール

「……実に不愉快だ。」


無録はそう言い放った。

頭部を撃ち抜かれ、倒れたはずの無録が。


「こんな柔い鉛弾で殺すつもりか?

どうやらお前は相当俺を怒らせたいらしい。」


そして無録は大きく振りかぶり、左手に握っていたそれを投げ飛ばした。少年の背後で壁にヒビが入る音が聞こえた。


あの男はあの状態で銃弾を掴んだのだ。事実、彼の左手には大きな擦り傷がある。


「もういい、興味も失せた。」


全身を包み込む殺意。限りなく死に近いそれは少年を絶望させるには十分すぎた。

そして無録は何も言わず、何も考えず、それが当たり前であるかのように少年の頭を掴み、握り潰そうとした。


だが、何故だ?

手に、腕に力が入らん。

ふと腕の方を見やる。

間違いない。これは血だ。


有り得ない。無録が最初に感じたのはそれだった。

だがそれを考える暇もないまま、2発目、3発目の銃弾が彼を貫いた。


「……調子はいいな。しかしまた面倒臭い状況になってんなぁ。」


「今のは……お前がやったのか?」


無録の視線の先に佇んでいたのは、20cm程の大型拳銃を携えた男だった。


「ま、大丈夫だろ。

何せ今日は気分がすこぶるいい。」


「無視とは随分…舐めた真似をしてくれるなッ!」


激昴した無録は刀を男目掛けて突き刺した。


「まあそう慌てなさんな。

折角だし昔話でもしないか?無録。」


刀は……男に届いてなかった。

無録の全力の一撃を、男は片手で抑えていた。


「お前…何処で会った?」


怒りと期待。

数年ぶりに感じたそれを噛み締めながら、無録は記憶の中から目の前の男を探し出していた。


「お前さんとは初対面だ。

いや…一応会った事はあるか?」


「……あぁ。ようやく思い出した。

お前もあの場所に―」


しかし全てを話すよりも先に、無録は床に倒れ込んだ。

まるで糸が切れてしまったかのように。



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