フェイズ12 インベート&ウィル

あの刀がどれだけ危険なものか。

少年はそれを身をもって知っていた。

だからこそ、準国家的組織であるグランド・ネセトですら敵に回してでも、それを回収しようとした。

しかし―


「……なんだ。驚かないのか?

普通なら否定するところだろうに。」


それはほぼ不可能となった。

確かに刀自体は先程までと同様、彼の手に握られている。

だがもうその刀は彼の探していたあの刀とは全くの別物だ。


「否定したところで何になるって言うんすか?」

「それを決めるのはお前ではないだろう?」


言うなれば―今は彼自身がその刀である。


どうする…。

どうするべきだ…?

今の自分じゃ、どんな手を使っても無録には勝てない。それほどの差が自分と彼の間にはある。

時間稼ぎ?

交渉?

駄目だ。どの方法も決定打には―


「考えるのは良い事だ。

そこらの馬鹿よりよっぽど好きになれる。

だがな…」


気が付けば、無録の手元にあったはずの刀は少年の首元に突き付けられていた。


「あまり人を待たせるな。

行動が遅い人間は嫌いだ。」


いつ刀を抜いた?いつ刀を突き付けた?

そして何よりも恐ろしかったのは、自分がその一連の動きに全く気づけなかった事だ。

だがそれを考えている暇はない。

少年は咄嗟とっさに銃を構え無録目がけて撃ち放った。


「珍しい銃を使うな。「それ」を見たのは、まだ2回目だ。」


だが、無録は撃たれる直前にその銃口を自身の掌で塞いだ。無論銃弾は彼の掌を貫き、そこからは鮮血が滴っている。


「……止められると思ったんだがな。

どうやらこの男の身体は想像以上に弱いらしい。」


完全に舐められている。

そもそもあの時首元に刀を突きつけられた時点で、こちらの負けは確定していた。あそこから自分が銃を構える事が出来たのも、そして撃つ事が出来たのも全ては彼の気まぐれのでしかない。


「本ッ当に……運ってものがない。

まあ、とうの昔にそんなものを信じるのは止めたんだけどさぁ!」


舐められ、手加減され、命ですら見逃された。

残念ながらそこまでされて何もやり返さない程、自分は簡単な人間ではない。

そして再び銃を構え、撃ち放つ。


「良い良い。諦めないのはいい事だ。」


もう一度、撃ち放つ。

もう一度、撃ち放つ。

もう一度。

もう一度。

もう一度。


そして弾切れか、少年は撃つ事を止めた。


「1発だ。それ以外は全て当たっていない。しかし撃つだけとは芸が足りないな。………流石に飽きるぞ。

もっと生き延びる努力をしてみろ。

それとも…死ぬか?」


確かに少年は感情的になっていた。何発もの無駄弾を撃ったのもそういう感情の表れだ。

だが…感情的になる事と我を忘れる事は全く違う。


「…!?

〜ッ!」


視界が点滅し、妙な不快感に襲われる。

初めての感覚に無録は思わず膝をついた。


誰が予想できるだろうか。

少年が銃そのもので殴ってくるなど。


そして彼は無録の…そして竜胆の頭に最後の銃弾を撃ち込んだ。


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