フェイズ8 ワールド&ワイド①

「……………」

「ん…?食べないの?それ。」

「いや…食べるけど。」


竜胆は彼女の恐ろしい行動力に舌を巻いていた。

銭湯、洗濯、そして竜胆達は昼飯にありつけてるわけだが、彼女はこれらの事をたった1時間でこなしていた。

出来ることなら竜胆も彼女の手伝いをしたいと思ったが、 なにせこの土地の言語はメイいわく中国語らしい。一応それなりの高校に通っているつもりはあったが、流石に中国語を習うような機会が与えられる事は無かった。

そのため、結局彼はメイの後について行く事しか出来なかった。


「すごいなって思ってたんだよ。たった1人でここまでやるんだからさ。」

「…別に凄くはないよ。竜胆だってマストならこれくらいの事は出来るでしょ?」

「いやまあ確かに出来るけどさ…。

何でここまでやってくれるんだ?」

「どゆこと?」

「普通知らない奴に銭湯代と洗濯代と昼食代、おごらないだろ?」

「別に奢りじゃないよ。後々返してもらう予定だし。」

「あっ……そういう奴っすか。」

「それに……」


メイはさっきからずっとパンの上に餃子を乗せて食べている。ありそうで無かった組み合わせだ。


「あなひゃがつひゃまったらわひゃしもこまるひ」

「いや、飲み込んでからでいいから。」


流石に口一杯に詰め込んだ状態で話されても何言ってるか分からない。


「んっ…ふぅ。あなたが捕まったら私も困るし。」

「………あいつらに聞かれてもお前の居場所は言ったりしないよ。そこまで俺も恩知らずじゃない。」

「拷問されても?」

「………スミマセン。やっぱ分かんないです。」


正直、拷問されたら1分も経たずに全部喋ってしまいそうな気がする。こうして考えてみると自分は思ってた以上に恩知らずなんだなぁと、半ば自虐的に考えていると


「ま、じばらくは問題ないでしょ。グランド・ネセトが同盟を組んでない国で大手を振って捜査をするのには色々と手順がかかるし、多分半月くらいは問題ないよ。」

「そういやそのグランド・ネセトっていう国は」

「違う、国じゃない。」


というか食卓の方を見ると、いつの間にかに皿ごと竜胆の分の餃子まで彼女に取られていた。一体どのタイミングで?


「グランド・ネセトは組織だよ。一応各地に支部はあるけど、表向きは土地も国民も持たないって事になってる。

ってあぁ!私の!」


流石に奢られている身とはいえ取られたままではしゃくだったのか、今度は竜胆が皿ごと取り返した。


「欲しがったら欲しいって言えばいいのに…。それで具体的にはその……グランド・ネセトはどんな組織?」

「良く言えば世界平和を掲げる組織。悪く言えば世界征服を企む組織。ついでに餃子2個ちょうだい。」

「残りの半分持ってかれた…。

ていうか何だそのややこしい組織は?世界平和を掲げる組織が何で世界征服を企んでるんだよ?」

「まあ世界征服っていうのは言い方の問題だよね。あくまで世界の国々を統一し巨大な一国家にするっていうのがグランド・ネセトの目的。」


なるほど、確かに世界中を1つの国にすれば国家間の戦争は起きない。実現できれば非常に合理的な国家構想だ。あくまで実現できればの話だが。


「でもそんな事したら他の国が黙ってないだろ。土地も持たない組織がいきなり世界統一なんて言っても「はい、そうですか」とはならないだろうし、ましてや協力する国なんていないんじゃないのか?」

「一応、マストが同盟を組んでいるよ。とは言っても互いに牽制けんせいしあっている状態だから同盟というよりかは不可侵条約に近いかな。」


不可侵条約……確か互いの侵略を禁止するって条約だった筈。と竜胆は少ない歴史の記憶を掘り起こす。


「でもそれを補って余りある援助を世界中から受けてる。……こんなピリピリした世界だからね。本気でグランド・ネセトの目的に賛同している人も少なくはないのかな。」


この世界についてはまだまだ分からない事だらけだが、1000年経ったと言ってもそういった宗教的な考えは変わっていないみたいだ。


「そこら辺は俺とは考えが違うんだろうな。」


まあ誰だって、死刑宣告された組織に賛同したくはないだろう。

そんなことを思いながら、竜胆はデザートの胡麻団子を飲み込み昼食を終える。


「あれ、もういいの?せっかく食べ盛りなのに。」


目の前の彼女は先程の餃子に加え、フグ(のような魚)の唐辛子の煮付けを食べている。


「食べ盛りって……確かにそういう年頃だけど、流石に死刑宣告されたら腹も減らないだろ。」


そういえば…目の前の彼女は盗みで捕まったと言ってたが刑はどれくらいのものなんだろうか。

と、ふと竜胆は疑問に思う。というか竜胆は彼女に関して余りにも知らなさすぎる。

しかし竜胆はここで聞くものじゃないだろうなと思い、質問を止めた。だが、その疑問の答は質問するまでもなくすぐに返された。


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