フェイズ5 ガール&ボーイ②

彼等が倉庫にたどり着くまでに目立った障害はなく、船員とすれ違う事はなかったし、追っ手も誰一人として来なかった。


「何かもう運がいいのか悪いのか分からなくなってきた……。」

「そういや、あなたは何やったの?普通に暮らしていればグランド・ネセトに捕まるなんて有り得ないのに。おっ、運がいいなぁ。荷物、見つけた!」


彼女は倉庫の端の棚に無造作に置かれていたポーチを腰に巻いた。


「何もやっていない。冤罪だ冤罪。」

「えん…ざい?随分、難しい言葉使うんだねー。」

「(冤罪ってそんなに難しい言葉だっけ…?)

警察が間違えて犯人でない人を捕まえてしまうってこと。それで俺もあらぬ疑いを掛けられてんだよ。あー怖い怖い。」

「へぇ…。でも何で警察なの?」

「はっ?」

「だって今、警察なんて言ってる人見たことないしね。普通、軍警だよ。警察って何かかなり古い感じだし。」

「…………もしかしてさ、警察って組織今はない?」

「うん。100年前に崩壊した。いや、解体だっけ?駄目だな…マストの歴史はあまり良く分からないや。」

「(よくよく考えれば日本が滅びているなら警察が無くなっていても何もおかしくなかったな…。)」


竜胆が自分で思っている以上に世界は変わっていた。地形も国も力関係も、人のあり方も。


「そのマストっていうのが日本が滅びた後に出来た国?」

「いや、日本が滅びたっていうのは少し違うかも。100年前の地殻変動で崩壊した国々を日本が吸収して「マスト」っていう国に変えたらしいよ。」

「(マスト……英語が最初に思い浮かぶけど多分、違うんだろうな。)」

「………思ってた以上にややこしい世界情勢になってるな。こんな時代の世界史とかご免だな。」

「ま、私は学校行ってないから関係ないけどね。あとは…これで全部みたいだね。」


彼女が開けたロッカーの中にはいわゆる日本刀と呼ばれるものが入っていた。多分、彼女の言う「戦利品」はこれの事だろう。だが彼女はそれをあっさりと竜胆に手渡しした。


「……これ、あんたの戦利品じゃないのか?」

「そうだけど、私が持ってても邪魔になるだけだから持っててよ。それに君もいつまでも丸腰じゃ不安でしょ?」

「余計なお世話だよ!」


彼女にとって邪魔だという事は、多少身長が伸びていても彼にとっても邪魔だともいえる。また一介の高校生がいきなり日本刀を渡されて戦えるか、と聞かれれば先ず無理だ。そんな現実離れした高校生がいてたまるかとすら思う。

つまり文字通り彼にとってこの日本刀は余計なお世話なのだ。とはいえ万が一の展開に備えて、最初はよく時代劇で侍がやっていたようにズボンとベルトの間に鞘を引っ掛けていたが、歩くとやたら足に当たるので仕方なく手で持つ事にした。


「よし、取るもの取ったしそろそろ脱出しよっか。」


ここまで彼等は何の障害も無く目的を果たす事が出来た。これを素直に幸運として喜びたいが残念ながらそこまでの図太さを彼は持っていない。

寧ろ幸運な事が続けば後にそれだけの不幸が来るのかと考えてしまう人間だ。だから気が付けた。奥の方のロッカーの中から小さな音が聞こえてくる事に。

疑問に思った竜胆はそのロッカーを開け、中を確認した。


「ハァ……?」


思わず気の抜けた声が出てしまった。


そこにあったのは時限爆弾だった。そしてそこには現在進行形で少なくなっている、爆発までの残り時間が表示されていた。


爆発まで残り4分24秒。


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