フェイズ3スーツ&ナース

「初めまして。松山竜胆君。

私は三神鑿斗みかみのみとだ。ああ、別にこの名前は覚えてもらわなくても構わない。

それより幾つか質問をする事になるが大丈夫かい?」

「はい。問題ないです。ただ……この質問が終わったらでいいんですけど落とし物について相談してもいいですか?」


流石に失くしたバッグを放っておく訳にもいかない。


「構わないよ。質問に答えてくれればね。じゃあ先ず所属国を教えてくれないか?」

「その質問ならさっき……」

「単なる確認だ。あまり気にしなくていい。」


急に言葉を遮られ妙な威圧感を覚えてしまう。

相手にその気はないと分かっていても勝手に思ってしまうのだ。

……昔からある嫌な癖だ。


「日本……です。」

「生年月日と年齢は?」

「2000年4月3日で18歳です。」

「………次が最後の質問だ。今日は西暦何年何月何日だ?」

「2018年…10月…」

「もういい。」


頭に何かを突き付けられた。それが何であるか、彼は直感的に理解した。ただ自分の頭がその事実を拒絶していた。

今、自分は前後から頭に拳銃を突き付けられている。前から銃を突き付けているのは今さっきまで自分を尋問していた男だ。じゃあ後ろにいるのは?

だがそれについて考える暇もなく状況はさらに悪化していく。


「動くな。少しでも怪しい動きを見せれば直ぐに射殺するんでな。悪く思うなよ?」


訳が分からない。射殺?何で自分が?

というかこの人こんな口調だったか?


「………教えてやろうか?何でお前が今こうなっているのかってのを。

手っ取り早く言えば今日本という国はねェ。150年前に日本は無くなってんだ。それがお前が哀れな事に銃を突き付けられている理由なんだわ。

んで、弁明はあるかい?もしかしたらお前のこの後の処遇も変わるかもなァ。」


滅茶苦茶だ。日本が滅びた?

それが原因で自分は銃を突きつけられている?

もしかしたら自分は気が狂ってしまったのだろうか。だとすればこれは夢だ。幻想だ。黙ってしまえばいい。そうすればやがて終わるんだ。


「(…………でも、もし本当に……日本が無くなったとしたら、それは……)」

「何で……ですか?」

「何がだよ。」

「何で日本は無くなったんですか?」

「………大規模な地殻変動。要するに地球中で洒落にならないレベルの地震が発生したって話なんだわ。んで日本はその影響で無くなった。今や北海道から沖縄まで皆仲良く海の底って訳よ。」

「………ならここはどこなんですか?」

「どこなんだろうねェ。竜胆くんはさァ、何処だと思うのよ?」

「新しい日本……。」

「あ”ーッ、その考え方は駄目だわ。全っ然グローバルじゃねェ。

でもまあ分かんなくていいぜ?


お前が此処に来る事は二度と無いんだからよ。」


そして鈍い音と共に彼の視界は暗転した。



「……ここは…。」


ここがいつもの部屋のいつものベッドの上ならどれだけ安心できただろう。

だが、そんな事はなく彼が目を覚ましたのは座り心地のいいソファーの上だった。


「……さっきの場所と違う。というかやたら豪華な部屋だし…。」


先程の対応とは雲泥の差だ。ただ、やはりというべきか部屋に1つしかないドアには鍵が掛かっていた。


「当たり前っちゃ当たり前か…。それにこの部屋……確かに豪華だけど必要最低限の物しかない。」


ベッド、椅子、トイレ、ドア……言うなればここは豪華に装飾された牢獄みたいなものだった。そして牢獄には看守が付き物だが


「あーら…よっと!お目覚めみたいだね。」


ドアを蹴り飛ばして現れたのは看守ではなく看護婦…いわゆるナースのような格好をした女性だった。


「いや~ビックリしたわ。まさか過去からタイムスリップしてきた人間がいるなんてさ。」

「……何でそれを!?」

「普通に考えりゃ分かるだろ?ま、その様子だとマストの石頭に色々と問い詰められたみたいだけど。」

「そうです!不審者とかそういうのは誤解で俺は…」


やっと理解してくれる人が現れた喜びで、少し彼は舞い上がってしまった。とはいえ今までの待遇を考えれば当然だが。


「あーまあ、落ち着けよ。私はあんたと話に来たんじゃなくて一方的に報告しに来ただけなんだ。」

「報告って、何をですか?」

「……あんたのこれからの処遇だ。一応前置きとか罪状とかあるけどぜーんぶめんどくさいんで結果だけ教える。

松山竜胆、あんたは「死刑」だ。」


彼女の服…それは確かにナースのような服だったがその色は白ではなく、まるで吸い込まれてしまいそうなぐらいの黒だった。



その後の記憶はあまりない。それくらいに死刑がショックだったのだろう。

暫くすると部屋には自分以外誰もいなく、知らぬ間に彼女は帰ってしまったみたいだ。


「あー…もう訳わかんねぇ…」


こんなよく分からない状況で死刑にされるくらいなら、不審者扱いされた方がよっぽどましだった。


「あー!もう最悪だ!最悪!間違いない!今日は人生で1番最悪な日だ!」


感情的になっても何も変わらないと自分なりに分かっていたつもりだったが、感情を抑えれば抑えるほどそれは溢れ出そうとしてくる。


「大体何だよ?怪しいから死刑って何だよ!裁判所が機能してねぇじゃねぇか!つーかもしかして裁判所無いのか!?そういう世紀末的国家なのか、ここは!?」


竜胆の独り言が感情の吐露ではなくただの愚痴になりかけていると、換気扇から声が聞こえてきた。


「ねぇ!聞こえてる?伝わってる?」

「え、誰?どちら?というかどこ?」

「こっちだよ。ここ。」


換気扇の音に混ざって声が聞こえる。勿論、換気扇で姿は見えないし、肝心の声も換気扇の音が邪魔で上手く聞き取れない。


「いや、ごめん。ちょっともう一回言ってもらえると…」

「これが邪魔だな、っと!」


物凄い轟音と共に今まで換気扇があった場所から人と換気扇が落ちてきた。


「よっ…と。時間がないから単刀直入に聞くけど君、こっから脱出したい?」


思考が追い付かない。松山はこの1時間、嫌という程驚かされてきたがここまで重ねて来るタイプは始めてだった。


「……えっ、いや今換気扇、壊して来ちゃったの?」

「壊したよ。ていうか時間ないから早く答えて!こっから逃げたいのか逃げたくないのか聞いてるの。」

「……逃げたいけど……でも方法は?」

「丁度この船、シー・ニャオに停泊してるの。だから今なら脱出しても捕まりにくいと思ってね。」

「船…………船?ここが?」

「うん。ここが船っていうのは間違いない。この部屋には窓がないから気付かなかったみたいだけど。」

「じゃあもう一つ、「しーにゃお」ってのは?何かの国?それとも島?」


そう聞くと黒のチャイナ服に身を包んだポニーテールの彼女は笑ってこう言った。


「最低で最高な私の故郷だよ!」





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