フェイズ2 シティ&ロボット

強烈な光に体を灼かれ、電車に轢かれた筈の竜胆な目を覚ます。


「……う……ああ?」


彼が状況を理解するのにそう時間は掛からなかった。

真っ昼間にどこかの大通りの歩道の真ん中で寝転んでいるだけだ。

でも一つだけ理解できない事がある。明らかに人より小さい何かが、何かを話しながらこちらを覗き込んでいるのだ。


「不審者………不審者?」

「いや、見たところ武器は保持していないみたいダ。多分、行き倒れの類だろウ。」


話の内容から察するに警察の人(?)達が近くにいると竜胆は予想した。自分が行き倒れ扱いされているのは不服だったが、それ以上に不安なのが視界に写っているのが機械的なフォルムの者達しかいないことだった。


「運ブ?少し重そうだけド…」


「いヤ…管理人を呼んできてくれるカ?

…………ン?目を覚ましたゾ!大丈夫カ?気分ハ?話せるカ?」


正直なところこのロボット(正直よく分からない。)のような者達は何か分からなかったが、ここまで心配されて起きない訳にもいかなかったので答える事にした。


「あ…ハイ…何とか話せます…。」

「そうカ…。ゆっくりでいいから質問に答えてくれるカ?

先ず年齢ハ?」


急に尋問のような展開になってきたと少し焦ったが、よくよく考えれば自分は何もやましいことはないので胸を張って答えることにした。


「17歳です。高校に通ってます。」

「学生なのカ…高校の名前ハ?」

神ヶ坂高校かみがさかこうこうです。あの……」

「名前ハ?」


こちらから名前について言おうとするのに被せるように名前を聞かれた。

もしかしたら心を読まれてるんじゃないかと、的外れな推理をするが、どんなに優れているように見えても所詮はロボット。

人間の感情を理解できる訳がないと自分の中で納得させた。


「松山竜胆です。松と山、それと竜と胆嚢たんのうの胆です。」

「成る程…じゃあ今度は所属国を教えてくれないカ?」

「所属…国?」


想定外の質問をされたせいで一瞬戸惑ってしまった。


「(何で日本でそんなこと聞くんだ?ていうか所属国って…。

いや、ロボットだから単純に規則に沿っているだけか?どっちにせよ正直に言えば問題ないだろ。)」

「日本です、あの島国の日本。」


言った自分でも不安になってあまり必要ない情報を追加してしまった。


「………そうカ。少し話を聞きたイ。付いてきてくれるカ?」

「………?

はい、問題ないですけど。」


不自然だ。どう見ても。

流石にこの時の自分も違和感は感じていた。

しかし、残念ながら他にどうすればいいのか分からなかった。今思えばこの時の自分には危機感というものが足りていなかったと思う。

要するに平和ボケだ。


警察署だと思われる建物の中で彼が案内されたのは会議室のような場所だった。(これに関しては後で知ったがこの部屋は取調室だったらしい。)

そして例のロボットに出口から最も遠い席に座るようにうながされた。


「でハ、私は担当職員を呼んでくるので暫くお待ちヲ。」


そう言って彼?は部屋から出ていってしまった。だが、しばらくして竜胆は事態の深刻さに気が付く事になった。


「(マズイ……。バッグ無くした……!)」


スマホも財布も定期も全部あのバッグの中に入っていた。つまり彼は文字通りの無一文になってしまったのだ。


「(どこだ?どのタイミングで落とした?学校に忘れたか?いや、それはない。駅に着くまで肩に掛けてたし…。だとしたら電車なんだろうけど、乗った記憶がない。

ていうかどういう流れで俺はあんなところに寝ていたんだ?

……………駄目だ。駅に着いてから何があったのか思い出せない…。せめてここがどこか分かれば良いんだけど…。)」


ふと窓の外を見ると街中に張り巡らされた道路と森のように立ち並ぶビルが目に入る。


「(…………このビル…大きくないか?)」


右手の方に映ったそのビルはざっと見ても東京タワー位の大きさはある。寧ろそれ以上の大きさかもしれない。

驚きなのはこれぐらいの大きさのビルが、幾つも立ち並んでいるという事だ。


「(都会ってこんな感じだったっけ……。記憶違いならいいんだけど。)」


彼の中で違和感が不安に代わり始めた頃、職員らしき男が部屋に入ってきた。

比較的整った顔立ちにしっかりと整えられたスーツ。緑色の少し目立つネクタイを除けばまさに絵に描いたようなしっかりとした社会人の格好だ。




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