第20話 森の外へ

 俺と一緒に王国へ向かうことを、アクアさんが勧めたのだと言うとルビーは素直に頷いてくれた。

 というか、魂が抜けたみたいな無表情だし、どこに行こうがどうでもいいようだ。大丈夫だろうか。


「……もう、行くか」

「うん」


 アクアさんの眠る場所に苗木を植えて、もう出発することにした。苗木を植えたのは、アクアさんが好きだったらしい物語の真似らしい。


「……ルビーも、行こう」


 ルビオは苗木に背を向けて、ルビーの手を引っ張る。


(いつまでも忘れられないように、か)


 アクアさんの好きだった物語の主人公は亡くなる前に、もし死んでしまったらいつまでも忘れられないように庭に埋葬し、その上に苗木を植えてくれと恋人に頼むのだ。そして恋人も、忘れたくないから苗木を植える。とびっきり美しい花を咲かす苗木を。

 その物語は、苗木を植えながらルビオが語ってくれた。植えるのは大変そうだったけど、自分で植えたいからと手伝いは拒まれてしまった。


(ルビーがここに戻ってきたら、この木を見て思い出すんだろうか)


 自分が一体なにをしてしまったのか。忘れることはなくても、記憶は少しずつ薄れていく。きっと記憶が薄れたままの方がルビーにとっては楽だろう。でも、きっとこれは忘れてはいけないことなのだ。


「たかし、行かないの?」

「ああ、ごめんごめん。行こうか」


 苗木から目を離して、俺はやっと森の外へ出ることにする。ルビオがいるから森で迷うことはないだろう。

 でも、ルビオに歩かせるわけにもいかないので、ルビオは馬に乗っていく。俺とルビーは徒歩だ。片足片腕が使えないのに馬に乗れるのか聞くと、この馬は賢いから大丈夫だと言われた。


(食料、水、お金、虫除け、衣服、寝袋……よし)


 リュックの中を今一度確認してみる。多分、これだけあればなんとかなるだろう。お金は……ルビーとルビオに借りてるけど、いつか返そう。

 俺はリュックを背負って、森へ向かう。無数の木々と苔と雑草は、どう見ても人の手は加えられていなくて、歩きづらそうだ。でも、裸足で歩くよりはずっと楽そうでもある。


「こんな森で、道がわからなくなったりしないのか?」

「わからなくなったら、太陽をみればわかるよ」


 不意に気になってルビオに聞いてみれば、太陽だなんて。見上げて太陽をみてみるが、ちっともわからん。方角とかがわかるのだろうか。

 まるで魂が抜けたみたいなルビーだが、森を歩くのは慣れているのか、普通に歩いてる。俺は雑草に隠れた木の根に転びそうになったり、木の枝に頭をぶつけたり、虫に怯えながら歩いているのだが。おかげですぐに疲れてしまう。


(森の外は、どんな世界が広がっているのだろう)


 素敵な世界だといいな。

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