第18話 かなしい話し合い

「かあさま、息をしていない……」


 朝食を久々にルビーも一緒に食べようとルビオに提案され、ルビーを呼びに来たのだが。

 うつむき、ルビーらしくないあまりにも弱々しい声でそう言われた。


「いつ気がついた」

「さっき起きたとき。心臓の音もきこえなかった」


 静かな説明。ふわりと現実感というものが浮かんだような感覚がした。でも、ルビーより歳上だという責任感が俺を動す。


「ルビオ呼んでくるから、ルビーは待ってて」

「わかった……」


 現実感を置き去りにしたまま、妙にはっきりする思考のおかげで次の行動に迷うことはなかった。

 はや歩きでルビオのもとへ向かう。


「ルビオちょっとごめん」

「えっ?なに?」


 ルビオを担ぎ、杖も持っていく。ルビーのもとへ戻ると、ルビーはアクアさんの手首から脈をはかろうとしているらしかった。しかしうつむいたままの様子からして、脈は動いていないのだろう。

 近くの椅子にルビオを座らせ、杖も持たす。歩くときがあればルビオには杖が必要だ。


「ルビー」

「……」


 呼び掛けられ、ルビーは素直にふりむき、俺の目を見る。

 静かに頬をつたう涙を見て、本当にアクアさんが亡くなってしまったのだと実感する。


「ルビーの……せい……」

「ここまでアクアさんを看病して生かしたのもルビーだ」


 ルビーの今にも消えそうな声にたいし、俺はそう言った。

 ルビオは状況を見て察したのだろう。アクアさんに近づき、おそるおそる首に触れ脈を確めた。暗い表情が、その結果を物語っていた。


「墓は必要なのか?」

「……かあさま、むかし墓はたてないでって言ってた。だから埋めるだけでいいと思う」


 ルビオは意外にも冷静で安心した。

 この質問は無神経な気もしたが、アクアさんが死んだという実感が二人にわかないうちに必要なことを済ませたかった。悲しんでいるうちに遺体を腐らせるわけにはいかない。悲しむのは必要なことが終わってからでいいだろうし。


「あ、でもどこに埋めればいいんだろう」

「……かあさまの好きなお花畑に、埋めてあげたいぞ」


 俺が主体とならなくても、しっかりとした二人なので話は進められていく。


「そうだね。そこならかあさまも……嬉しいと思うな」

「棺も必要だが買いにいくと時間がかかるな。かあさまの大杖の箱を使うしかないぞ」


 ただ、淡々としているのはきっと悲しみを押さえているからだろう。立派な子たちだ……。


「それでいいと思うよ。変な箱じゃないしかあさまくらいの大きさだった」

「服はルビーがきれいなのに変えておくぞ」

「二人共、力仕事があるなら俺を頼ってくれていい」


 二人の話し合いに口をはさむ。さすがに二人では、埋めるための穴を掘ったり、アクアさんを運んだりすることはできないだろう。

 二人は俺の言葉に、静かに頷いた。

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