第16話 あたらしく覚えた魔法


「ファイヤー・アロー!」


 そう唱えると杖の先から火でできた矢が飛び出す。矢といっても火で輪郭がはっきりしてないので、ただの棒状の火にしか見えないのだが。


「たかし、結構上達したね」

「ルビオのおかげで魔法を使うのも、結構なれてきたよ」


 太い木を背にして座るルビオに、そう言って笑う。家にずっといるよりは、外で魔法でも撃ってた方が気分は楽になった。ルビオに教わりながら、1時間くらい魔法を撃っていたおかげで、新しく教わった魔法も結構上達してきた。

 俺はいつかここから出ていかなければいけない。地球に、家に帰るために森を抜け、王国に行き北の魔人に帰る方法を聞く。それで本当に帰れるのかはわからないけど……。


(でも、この家族を置いていくのか?)


 俺は、最近この家族にお世話になってるただの居候だ。でもこの状況で家族を置いて俺だけどこかへ行ってしまっていいのだろうか。


「……昨日はルビーと話したいだなんて言ったけど、勇気がでないや」

「じゃあ勇気が出るまで魔法を教えてよ。今すぐ話す必要があるわけじゃないだろう」


 暗い顔をするルビオに、そう励ます。俺にできるのはそのくらいだし。


「でも今日中には話をしたいなあ。どんどん気まずくなっちゃいそうだし」

「ルビオは凄いな」


 家族とはいえ、自分を殺そうとした相手だ。俺だったら怖くなって関わることすらやめてしまいそうなのに。


「凄くなんてないよ。あんなことした理由もわからないし実感もわからないから、怒るとかそういうのはないし。このままルビーとも気まずいままだったら寂しいし。自分のために話したいだけだから」

「……それでも俺は凄いと思うけどね」


 俺ならきっとそうはならない。もし俺だったら自分を殺そうとし、左腕と左脚が動かなくした、ルビーをきっと一生許せない。


「……僕は寂しがりやなんだ。ルビーやかあさまがいなきゃ生きてけない」


 そう言うルビオの顔は暗い。


「ルビオはまだ子供なんだし、それでいいと思うけど」

「でもルビーならきっと一人でも平気だよ。ルビーは強いから」


 俺なりに頑張ってフォローしたが、全然だめだ。どうして急にそんな落ち込むんだ。


「僕は弱いししっかりしてないからルビーが酷いことするのに、気付けなかった。僕が……悪いのかも……いや、ごめんなんでもないや。弱気になっちゃった。思ったより僕ショック受けてたのかな……」

「気にすんな」


 俺はルビオの隣に座り、頭を撫でる。そうすると表情は暗いままだが、少し笑ってくれた。

 ……なんにもしてやれなくて、ごめんな。

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