第15話 賢い子供

 自分の分とルビオの分の食事を運ぶ。


「入るよ」


 ルビオは食事をもって部屋に入ってきた俺をみて、申し訳なさそうな顔をした。しかしその気持ちを言葉にしないのは、言葉にしたら俺が困ることを予測できるからだろう。

 食事を持ってこさせてしまうのは、しょうがないことだし。


「今日は、ちゃんと説明しないとと思って」

「……ルビーがなにかしたんだよね?かあさまが僕の見舞いをしないこととも関係してるのかな」


 ルビオが前のめりな態度でそう言ったのは、ただ単に気になっていたからなのか、俺が話しやすいように気遣った結果なのか、俺にはわからない。

 少なくともルビオは状況を全く理解していない訳ではないらしい。


「そうだ。ルビーがルビオを……」


 その先の言葉を話すことができない。こんなこと言ってしまっていいのか。いや、言わなければいけないだろう。殺そうとしたのだと。

 長い1秒1秒が、重い空気の中で正確に流れて行く。


「……殺そうとしたの?」


 躊躇してしまったことを後悔した。ルビオにそれを言わせるのは、酷い。そう思いながら頷く。


「でも、毒では死ななかったルビオを、ルビーは剣で殺そうとして、アクアさんが……」

「かあさま、僕を庇ったんだ。それで?」


 驚きや不安を押し込めて、ルビオは聞いてきた。


「……アクアさんは、ベッドから起き上がれなくなった」

「……そっか」


 寝たきりになったとはっきり言えばいいものを、俺は言葉を濁す。こういうときはどう伝えるのが一番いいのか、教科書に書いてあれば言葉に迷うこともないのにな。


「……たかし、明日からまた二人で魔法の練習をしない?」

「魔法の練習?……そうだね、いいよ」


 唐突にその話になって、そういえば魔法の練習をしていないことに気がついた。


「そうしたらルビーとも話したいし、家事もたかしに全部任せたままじゃダメだ……」

「ルビオ、無理はするなよ」


 左の腕と脚が急に動かなくなったんだ。慣れるまでは普通に生活するのも大変だろうに。


「僕は無理なんてしないよ」

「……それならいいんだが」


 ルビオも精神的に追い詰められているのかもしれない。無理をしそうな顔をしてる。


「スープ、さめちゃったかな」

「……食べようか」


 忘れられていたスープとパンを、二人で食べることにする。

 食べる間は、なにも話さなかった。

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