第13話 ただ困惑することしかできなかった


「っ……!?」


 叫びそうになった。でも声はでなかった。


 どうして、どうして、どうして?

 どうしてこんなことになってしまった?

 なにがあってこんなことになってしまった?

 アクアさんの背中は裂け、血がドクドクと出て……。ああだめだ見ていられない。





 ルビオとルビーが町へ出かけてからは、魔法の練習もそこそこに、アクアさんと話すことが多くなった。

 紅茶を飲みながら二人で他愛のない話をするばかりだったが、なんとなく楽しくてとても幸せな時間だったから。

 そんな幸せな時間のときにアクアさんは「嫌な予感がする」と一言、家を飛び出していってしまった。勿論びっくりしたが、俺も慌ててついていった。

 美しい花が爛漫と咲き誇るその場所に、眠ったルビオと剣をもったルビーがいた。


(なんだ、二人共もう帰ってきていたのか)


 俺が呑気にそう思った刹那、アクアさんはルビオを抱き締め、ルビーはアクアさんの背中を切り裂いた。

 ……どうして?ルビーがなぜ?

 状況を理解できない。


「あ……かあ、さま……!」


 ルビーは目を見開き、剣を落とし、呆然とする。


「ち、ちが、違うのかあさま、ルビーはこんなことしたくなんて……!」


 ルビーが、ルビオを、殺そうとしたのか……?

 そんな、どうして?


「ルビー、言い訳はだめよ」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 謝り、泣き崩れるルビーをアクアさんはそっと抱き締めた。

 アクアさんを治療しなければいけないのに、俺はあまりにも無知で無学で、呆然とたたずむことしかできなくて、でも助けなければいけないのに……!!俺はどうすればいいんだ……!?


「こんなときは怒らないといけないんだけど、ごめんねルビー、怒るのは苦手なの」


 アクアさんは時折痛みのせいか言葉をつっかえさせながらルビーの頭を撫でてそう言った。


「私はルビーのこともルビオのことも愛しているわ。たとえルビーがこんな酷いことをしても。でもその罪を忘れてはいけない」

「あ……かあさま、ごめんなさい、どこにも行かないで……」


「たかしさん……ルビーに世界の広さを教えてくれないでしょうか……」

「アクア、さん……」


 その時思い出した。

 二人で紅茶を飲んでいたとき、アクアさんが言っていたこと。


『ルビーは外の世界をよく知らないの……私とルビオとルビーだけの世界しか……』


 同じようなことを言っていた。


『だからルビーは苦しんでいる。私がしっかりしていればあの子に自信をもたすことができたのに……』


 でも、その言葉が一体どういう意味なのか、今でもわからなかった。


「ルビー、愛しているわ」

「かあさま、ルビーもかあさまのこと、ルビオのことも……愛してっ……本当に……」


 言葉の途中でルビーは大粒の涙をこぼし、言葉をつっかえらせる。

 アクアさんは眠ったままのルビオも抱き締め、愛してると囁いた。

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