第12話 おいしい紅茶


「今日も紅茶、どうですか?」


 掃除を終えた俺に対し、アクアさんがそう言いほほ笑んだ。


「いいんですか?いります」

「今日はフルーティーな紅茶を淹れました。いい香りでしょう?」


 ポトポトとカップに注がれる紅茶から、甘い香りが漂う。


「癒されます。アクアさんは紅茶がお好きなんですか?」

「ええ、とっても。10年前から毎日飲んでます」


 ……そういえばこの人何歳なんだろう?ルビーとルビオは10歳とか12歳くらいだと思うので、アクアさんが20歳の時に二人を育て始めたとすると今30歳。そうは見えないし、育て始めたのは15歳くらいかな。

 紅茶を飲むとほのかに甘く、しかしさっぱりとしていてとても飲みやすかった。


「毎日なんてすごいなあ……お、これめっちゃおいしいです」

「気に入っていただけたようでなによりです。せっかくなので明日も飲みましょう?」


 その言い方だとまるで酒の話みたいだ。なんて思いながらその意見に賛同した。


「一人で家事をするのは、大変ではないでのすか?毎日やらなくてもいいんですよ」

「いや、ルビーに怒られそうなんで。気にしないで下さい」


 そう言って苦笑する。家事をさぼったら、居候の癖になにもしないのかと言われてしまいそうだ。


「……悪い子じゃないんですよ?」

「ははは、まあそれは分かってきましたよ。意外にいい子なんだなあって」


 アクアさんの困ったような笑顔がかわいらしくて、ちょっと照れる。ルビーは気は強いし警戒心も強く、酷く不愛想なのだが、あれでいて家族を大切にする可愛い子である。


「ルビーは外の世界をよく知らないの……私とルビオとルビーだけの世界しか……」

「へ?」


 アクアさんが目を伏せてそんなことを言う。


「だからルビーは苦しんでいる。私がしっかりしていればあの子に自信をもたすことができたのに……」


 悲しげなアクアさんの言っていることは、最近この家に来たばかりの俺には分からないことなんだろう。それでも俺に言うのは、双子のことを相談する相手がいなかったからなのかもしれない。


「もし良いと言ってくれるのなら、あの子達にたかしさんを北の魔人まで案内させましょうか」

「案内を?してくれるのなら嬉しいけど、アクアさんはどうするんです」


 アクアさんは病気があるらしいし、家事とかもそれが理由でルビーとルビオに任せていたはずだ。


「高いけど、人を雇えばなんとかなります……多分」


 とても小さな声で付け足された、多分という言葉にとても不安にさせられる。


「多分が不安なので、一人で頑張ります」


 俺がそう言うと、アクアさんはしまったという顔をして、手で口元を隠した。意外におちゃめでかわいい人だ。

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