第11話 ゆっくりお喋りするのも楽しい


「たまにはゆっくりお話をしませんか?」


 ルビオとルビーが町へ買い物に行った翌日、アクアさんは俺にそう言った。町は遠いらしく、馬に乗っても一晩かかるのだと。なので二人が帰ってくるのは数日後になるだろう。


「いいですよ。たまには俺も休みたいですから」

「そういえばたかしさん、最近は忙しそうですね。魔法の練習と家事手伝いを一日中している気がします」


 魔法の練習時間を減らせば休めるのだが、居候のくせにあんまり家でだらだらしているのはどうかと思い、つい忙しくしてしまっている。

 俺はアクアさんの向かいの席に座った。するとアクアさんはティーポットをカップに傾け、紅茶をいれてくれる。


「お砂糖はいりますか?」

「いえ、大丈夫です。無糖が好きなんで」


 そう言うと、どうぞと俺に紅茶を差し出してくれる。指の先まできれいだなあ……と、少しみとれた。俺はそれをごまかすように部屋を見渡してみたが、逆に不審な気がして勝手に恥ずかしくなってしまった。

 部屋は結構殺風景でせいぜい花が一輪飾ってあるだけだ。


「そういえば前捕まえた泥棒は……?」

「ああ、あの人ですか。帰っていただきましたよ」


 ……それだけでいいのだろうか。また来ちゃったりしないのだろうか。


「……あの人は、本当は泥棒ではないんです」


 あまりにもさらりと告白するものだから、一瞬聞き流しそうになってしまった。少し遅れて、ぽかんと口を開けてしまう。


「どうしてそんな嘘」

「私は、あの人が捨てた、まだ赤ん坊のルビーとルビオを拾ったんです」


 二人は……捨て子だったのか……。確かにアクアさんとは、髪の色も顔も似てはいなかったが。


「え、でも、どうしてその人はここに来たんですか?」

「赤ん坊の時は二人共目は茶色でした。でも成長するにつれてルビオの目は赤くなったんです」


 目が赤く?


「ああ、そういえばたかしさんは異世界人ですから知りませんね。この世界で赤い目を持つ生物は魔法適性があるんです。ほとんどは生まれつきですが、稀にうまれてから数ヵ月かけて目が赤く染まる子もいるんです。ルビオは、稀なパターンでした」


 へえ、異世界人も同じ人間だと思ってたけど少し仕組みが違うのか……。異世界人は魔力との関係がより深いのかもしれない。


「赤い目を持つ人は稀にしかいません。特に後から目が赤く染まる子は、歴史上必ず優秀な魔法使いとなっていますから、あの男はルビオが欲しくてたまらないのでしょうね」

「……自分勝手なやつですね。一度は捨てたくせに」


 捨てといて、才能があるとわかったら欲しくなるのか。なんだよそれ。

 誘拐でもしようとしてたのか?泥棒みたいなもんじゃないか。


「話を聞いてくれて、怒ってくれて、ありがとうございます」


 アクアさんが少し照れ臭そうにして目を伏せると、空色のまつげが下を向き、その長さが際立つ。白い頬が少し赤く染まった

 なんて美しい人なのだろう。美人は3日で飽きるなんて嘘だ。


「私も怒りたかったんですが、苦手だったので、たかしさんが怒ってくれてスッキリしました」


 アクアさんはそう言って俺に目を向け、息を飲むほどに美しく、優しく微笑んだ。

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