第10話 既視感
「まあ、なにをやっているの?」
アクアさんはぽかんとした表情をして俺達を見下ろしていた。
「かあさま、泥棒つかまえたよ」
「アクアさん、泥棒捕まえましたよ」
「わ、私は泥棒ではない」
あれ、なんかこの光景どっかで見たような。既視感デジャブ?……俺が泥棒と間違われたときか!
「捕まえてくれたのね。ありがとう」
もしやこいつも泥棒と間違われているだけなのだろうかと不安になったが、すぐにアクアさんの笑顔にほっと安堵する。
「私は泥棒ではない。離してくれ、用事があってここに来ただけだ!」
泥棒は特に暴れる様子もなかったので、おさえるのに苦労はしなかった。
「では私はちょっと泥棒とお話をしてきますね」
「おい、どうして泥棒ということになってるんだ」
そんな怪しい人物とお話なんてアクアさん大丈夫だろうか。そう思いつつも、泥棒をアクアさんに渡す。
泥棒はおとなしくアクアさんと歩いて行ったし、細身でなよなよした弱そうな男で、あまり危険ではなさそう。放っといてもいいか……?いやでも、アクアさんは病気がちで体が弱いから、いくら軟弱そうな男でも危険な気もする……。
「たかしにルビオ、なんだか騒がしかったぞ」
「あ、ルビー今日は猪を狩ったんだね。実はさっき、泥棒を捕まえたんだ」
ルビオの自慢げな声にルビーはどうでもよさそうに「ふぅん」と返し、すでに解体された猪を引きずって家に向かった。死体には最近やっと慣れてきたところなので見ても一応平気なのだが、やっぱりグロテスクでちょっと怖い。
ルビーは数日前、俺に解体を手伝わせようとしたが、どうしても無理だと言って、その日はかわりに皿洗いを全部やった。死体には慣れていないんだ。普段見ていた肉は元々動物だったとは思えないようなきれいな見た目で、パックに詰められていたから。
「アクアさん大丈夫かな」
「かあさまなら大丈夫だよ。今日は体調良さそうだし、僕よりも魔法が得意だから。あんな泥棒すぐやっつけてくれるよ」
アクアさんも魔法が使えるのか。なら、もしかしたらルビオはアクアさんに魔法を教えてもらっているのかもしれないなあ。そう思うと微笑ましい。
「アクアさんすごいなあ」
「そうだよ。かあさまはすごいんだよ」
褒めると、ルビオは自分のことのように嬉しそうに笑った。ルビオもルビーも本当にアクアさんが大好きだよなあ。家族仲良しで羨ましい。俺は家族と仲が悪いわけじゃないけど、だからといってそんなに仲がいいというわけでもないから。
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