第9話 ファイアーボールは奥が深い


 ファイアーボールは奥が深い。

 大きさは自分の感覚で調整しなければいけないし、魔力をうまく束ねられないとそれだけ威力が弱まる。使う魔力を節約できそうな所はまだまだあって、ただ、唱えながら魔力を調整するのはそれほど器用ではない俺にとっては、理想の魔力量でうつファイアーボールを実現するのは夢のまた夢であった。

 一度ルビオがお手本をみせてくれたが、木が一本ふっとぶほどの威力があってびっくりした。同じ魔法でも技術力によって全然違うのか。


「たかし、そろそろ休憩したほうがいいんじゃない?」

「確かに、そうだな……」


 ルビオに言われて自分の魔力が結構減っていることに気がついて、俺は木を背にして座り込んだ。


「もうすこし自分で魔力管理できるようにならないと」

「夢中になると結構減ってたりするよねー」


 魔力の管理は少し気にしている問題だ。意識すれば魔力の量はなんとなくわかるのだが、量が減っても魔力不足にならなければ身体に影響はないから、魔力不足になりそうでも気がつかないときがある。


「魔法って楽しいな」

「魔法は楽しいよ。複雑な魔法もたくさんある」


 ルビオが隣に座ってそう教えてくれる。


「へえ、どんな魔法があるの?」

「複雑なのだと、ファイアードラゴンとかかな。今は基礎を固めるためにファイアーボールだけをうたせてるけど、魔法はやたらと種類が多いよ」


 ファイアードラゴンかあ。なんかかっこいい。


「火だけじゃなくて、例えば水属性の魔法とかってないの?」

「あるよ。火、水、土、風、その他。僕は火魔法以外は詳しくないから教えられないけど」


 夢が広がるなあ。いつかは色々な魔法をぶっ放すことができるのだろうか。

 それにしても俺はこの世界のことをよく知らないな。魔法があって地球とは違うということくらいしかわかっていない。


「動物だけじゃなくて、魔物とかっているの?」

「異世界人なのに、よく知ってるね。異世界もおんなじような感じなの?」


 なんと説明するべきだろうか。この世界と似た物語が流行ってる……そう考えると謎だよな。もしかしてこの世界から帰ってきた人がいるのだろうか。その人が流行らしたとか?


「……たかし、なんかあそこに人いない?」


 ……あれ?知らない人影がみえる。


「たかし、あれ泥棒かも」

「まじ!?捕まえないと」


 こちらに背をむけた男は少し遠い場所にいる。なにやらこそこそと移動しながら家のある方向をみている。

 絶対あいつ泥棒だ!この、お前のせいで俺は泥棒と間違われて縄でぐるぐるまきにされたんだぞ!

 俺はルビオに目配せした。ルビオが頷いたのを確認して、全速力で走り出す。勿論ルビオも一緒に。


「「確保ー!!」」


 そうして俺たちは男を押し倒した。

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