01.選抜試験
春菜1
馬鹿だとは思ってたけど本当に馬鹿だったんだ、と、
「それでは皆さん! 正々堂々力の限り、公正明大なる勝負を、お願いします!」
明るい女の子の声に続いて、運動会で使うような空気銃の音がはじける。それをすぐに、
一体あの子はどんな名目で雇ったんだろう、と、心の中で疑問を作り置く。単に、イベントとして?
今のところ伏せられている主催者を知る春菜は、勢いで参加を決めたもののさほど乗り気ではなく、一斉に駆け出した人々を、いくらか
二、三百人、そこそこの規模の学校の一学年分くらいはいそうな参加者たちは、一応は書類審査と簡単な面接は潜り抜けているのだという。
だとすれば、一体どれだけの応募があったのか。
そのうち、「正義の味方」なるものをどれだけが
主催者との腐れ縁ゆえ、あやうくこの競技審査をすっ飛ばして採用確定になりかけた春菜は、いっそここでわざと失点してやろうかとも考えないではないが、楽しそうだと思ってしまった時点で、負けだ。
狙うは、精一杯やっての落点しか残っていない。それはそれで悔しいのだが。
「…ってかみんな速い。山登りもつのか…?」
ルートとしては、山を登って降りてくるだけ。別段けわしさはなく、ちょっと頑張るピクニックコースといったところだ。
その途中に、計五個のチェックポイントがあり、そこでの合計点やルート中での振る舞い込みでの審査となるらしい。
一応、順位は問題ではないはずなのだが、完走は前提となっている。
そろそろ行くかな、と軽く地面を踏み込んだ春菜は、うずくまる人影に気付いて立ち止まった。
ピンクを基調にした、ぎりぎり街中でも着ていけそうなジャージのような格好をした人影。編み込みの長い髪といい、女の子だろう。
バイトなのか会社から借り出されたのか、運営スタッフがいるから問題があればそちらでどうにかするだろうと思いつつも、春菜の足は止まったきりだ。
「まあ…いっか」
一応職探しは続けている。落とされても問題はない、と、言いわけともいえそうなことを心の中で呟いて、春菜は人影に近付いた。
「どうかした? 係の人呼ぼうか?」
「ちょっと貧血で…えーと、うん、大丈夫、です」
春菜が声をかけたのをきっかけにゆっくりと立ち上がった少女は、高校生くらいの可愛い女の子だった。くっきりとした声が印象的だ。
何もこんなのに参加しなくても、という思いは出さずにおく。
「折角なんだから、無理のないように楽しんだほうがいいよ。じゃあ」
「…あのっ!」
「ん?」
駆け出した春菜を、少女が追いかけてくる。
気付けば周りに参加者はいなくなっていたので、どのみち一緒にはなっていただろうが、余計なことを言ったかな、と思ったが、少女の様子から文句を言われそうにはないと安堵する。
が、その先は予想していなかった。
「ありがとうございますっ、私、
「――は?」
「あっ、えっと、あのっ、そうじゃなくてっ、誰も声もかけてくれなかったしあれでけっこう不安にもなっちゃっててっ、嬉しくてっ、お友達になれたらなってっ」
改めて、何を間違えてこんなところに、と思うが、可愛いなとも素直に思う。つられて、年を取ったのかなあ、と思うと少し悔しい。
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