緑
「求む、正義の味方!」
素っ気無く印字されたA4の紙を目の前でひらひらと示される。
字体はよくあるゴシック体で、しかし、そこに続く文字列は何とも熱意に
小さな小さな芸能プロダクションの社長は、面白くもなさそうに頬杖をつき、自分もその文章を読んでいる。
一足先に読みきった彼は、無精ひげ(と思われる)を
「なんすか、これ。シャチョー、ヒーローショーの仕事拾ってきたんすか?」
「違う」
「じゃーなんすか。番号あるってことは、え、何マジ募集してんの? セーギのミカタを? えーっ、まじっすかー? しかも名前飛竜って、かっこよすぎっしょー」
明るく笑い飛ばす。
樹は、この事務所の秘蔵っ子、ということになっている。が、そう
樹の父の友人だったという社長は、がりがりと頭を
「ヒリュウじゃねえ、フェイロンだ」
「フェイロン? ええー、うそでしょ、いくら俺頭悪くたって、これ、そんな読み方しないっしょ」
「中国語だ」
「ちゅーごくじん? なんでそんなのが正義の味方探してんの? あ、わかった、正義の味方とかって、実は鉄砲玉探してんでしょこれ。ん? なんでそんなのがうち回って来んの? えっ、シャチョー、とうとう暴力団系に手ェ出したんすか? やばいっしょそれー」
「
容赦なく、樹の頭に拳骨が落ちる。が、慣れたもので、ひょいとそれをかわしてしまう。
樹は、社長の苦々しげな顔に目を丸くした。
それこそ暴力団と縄張り争いに発展しかけたときでさえ、
少しして、大きな溜息が吐き出された。
「なあ、樹よ」
「な、何?」
しみじみとした目つきで見つめられ、樹は、思わず後ずさった。
社長がこう呼びかけたときにろくなことはない。そして、いつもうかうかと乗ってしまうのだから我ながら馬鹿だ。
「実はなあ、金がねーんだわ」
「いや…それいつもじゃん?」
「今回は全くしゃれにならん具合に金がねーんだ。てことで、樹お前身売り決定」
「…はあぁあ?!」
「やって来い、正義の味方。もぎ取ってくるまで帰って来なくていいぞ」
「いや、いやいやいや! わけわかんねーからそれっ! 俺スタントの仕事もらいに来たんだけど!?」
「似たようなもんだろ。連絡つけといてやったからな」
「ってあんた今説明読んでただろ! 詳しいとこ見ずに勝手にやっただろー!」
このくらいは日常茶飯事、そうして結局は、樹が大人になって折れてやることになるのだった。年齢でいえば、明らかに社長が年上なのだが。
――園山樹、十七歳、正義の味方(希望)。
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