青
「募集。正義の味方」
冗談としか思えないその文字列は、社員十人程度のIT企業のプログラマー募集と工場メンテナンス員募集の求人の間にあった。
その三つが並んでいるところに、このサイトの分類のいい加減さに気付く。
思わず求職サイトのトップを確認し、ログインして会員限定の
「なんだこりゃ?」
リンクしているその文字列をクリックし、折り
見てみれば、並んでいる諸条件はきちんと型通りに書かれている。
ただ、実際にどんなことをするのかといった部分がひどく曖昧で、詳細を知りたければとにかく連絡を
連絡先に書かれた番号と名前を別画面を立ち上げて調べると、新たな中華街になると噂の一角に繋がっていた。
中華街=中国マフィア、というのはいくらなんでも妄想だと思うが、この場合、面白ければそれでいい。
「ふうん?」
くるくると指先でペンを回しながら、空いているもう片方でもう一度眼鏡のフレームをつかむ。
待遇だけを見れば、今の職場よりもいい気がする。それは
もっともその衝動は単に、現状に飽きているだけともいえる。
仕事中に、堂々と求職サイトを開いているくらいには、聡史は現実逃避を必要としていた。このままでは、仕事をしながらネットで何か流し見る日も遠くなさそうだ。さすがにそれは
それに、「正義の味方」という言葉は
実のところ今
「ネタにはなるだろ」
回していたペンを止め、適当なメモ用紙に番号を書き付ける。
スマホに保存するなり私用アドレスに送るなりしてもいいが、万が一を考えて帰り道にあったはずの公衆電話を使おうと考える。
こうなってくると、ちょっとしたスパイごっこだ。
思わず苦笑いをこぼしながら、聡史は、求職サイトを閉じた。両手を上げて大きく伸びをして、眼鏡を押し上げて
いい加減、仕事に戻ろう。
――速水聡史、二十七歳、正義の味方(かも)。
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