パンツはいちご柄じゃない! 十枚目

「オレ、怖かった……!真麻襲われて、先生からあんな話されてっ……急に、怖くなった……!」

「可愛い」だけじゃ、キスだけじゃダメだったんだ。



「愛してる」



その言葉の重みが、発して初めて分かった。僕は誠吾くんの全てを受け入れて、僕の全てを誠吾くんに預ける。

少しの時間の小さなすれ違いが、二人の絆をより強くさせた。


「可愛い可愛い、僕の彼氏」




「ごめん」

「なんで」

「オレが一人でこんがらがって」

「……可愛い」

「っなんでそうなる!」

ちょっとしんみりした雰囲気が、僕の一言で吹っ飛んだ。だって可愛いんだ。

「話してくれてありがとう」

「受け止めてくれてありがとう」

お互いスッキリしたと思う。いくら手を繋いでも、唇を重ねても分からなかったことが、今日分かった。

僕のベッドに座って、二人並んで壁に寄りかかって、ぼんやり前を見つめている。目を合わせるのが少し恥ずかしかったから。

「これからも、愛してる」

「小っ恥ずかしいこと言うなよ」

すぐに赤くなる誠吾くんを真っ赤にしてみたくなった。もちろん僕も恥ずかしいけれど、きっと言った方が良いと思った。

ちらりと誠吾くんを見ると、思いのほか照れていなかった。

「あれ?恥ずかしくない?」


「は、恥ずかしいけど……嬉しいから」


「っはぁー。もう、本当に可愛いなー!」

僕はまた誠吾くんに抱きついた。抱きつき癖がついたかもしれない。誠吾くん限定だけど。だって、だって、本当に可愛いんだ。抱きつきたくもなるだろう。

「ちょっ……もー!……いいよ。好きなだけ抱きしめろ」

口元を隠した誠吾くんは少し赤くなっている。「可愛い」は魔法の言葉のようだ。すぐに誠吾くんが赤くなる。

「本当に?好きなだけ?」

誠吾くんの意地悪が移ったみたいに、俺もにやりと笑った。しかし、返ってきたのは予想外の答えだった。

耳元に擦り寄ってきた誠吾くんの息がくすぐったい。息はすぐに熱を帯びて俺の耳に入ってくる。


「……抱きしめるだけでいい?」


!!!!????


「な、なん……!誠吾くん、それっ……!」


「あはっ、照れてる。大和」


今までの仕返しだと言わんばかりのしたり顔だ。誠吾くんを照れさせてきたツケが回ってきたのだ。今の俺は生まれたばかりの子供並に真っ赤なのだろう。

動揺が隠しきれない俺を追い立てるように、誠吾くんは俺の手を取ってさらに続けた。


「あの日の続き、してもいいんだぜ」


「……今日は随分と積極的だ」


俺も負けじと強がるけれど、冷静な言葉とは裏腹に誠吾くんの重ねられた手は迷わずスカートの下へ伸びていく。少し強ばっていたが俺は構わず太腿に指を滑らせる。

「今日の下着は?」

「そんなこと言ってないで……って!?」


「いちご柄…………」






「師匠ーーー!」

「真麻!」

暑さがさらに酷くなり、まさに夏真っ盛りである今日この頃。この姉妹は通常営業だ。真麻が襲われ、誠吾くんが俺の部屋に来たあのひから一ヶ月が経った。誠吾くんと仮屋くんの仲はさらに深まり、俺と誠吾くんは仲以外も色々と深まった気がする。具体的に言うのははばかられるが、俺にとっては幸福すぎる程の一ヶ月感だった。

「今日もステキっすよ、師匠!」

「真麻も可愛い……って言いたいが、寝癖が酷いぞ」

「え、えぇ!マジっすか!恥ずかしいなぁ……」

「後で整えてやるよ」

「っ……あざっす師匠ぉ!」

最近、地味だったはずの俺が美少女を侍らせていると噂が立つようになった。この二人と一緒にいると周りの目が刺さってくる。当の本人たちは気付いていないが、彼らにも男共の視線が集まりつつある。俺は、そいつらから可憐な花を守るボディーガードになった気分だ。今日の推定告白人数は二人。今日も二人を守り、平和な学校生活を過ごそう。

「真麻はちゃんと身だしなみに気を使えー。そしたらとびきり可愛いんだから」

「うぅ……頑張ります!」

「ん?大和、その子知り合いか?」

「え、何?」

今日の決意表明を終わらせ、誠吾くんと仮屋くんを見ると、二人とも不思議そうな顔をしている。誠吾くんの言う「その子」は、振り返った先に立っていた。顔を見てもピンとこない。知り合いではない、女子生徒だ。

「なんか用ですか」

違和感を覚えつつ彼女に問いかけると、いきなり俺の手を取って走り出した。

「!?」

「何してんだお前!大和をどこに連れてく気だ!」

彼女は口を開かないまま走り続け、誠吾くんの声が遠くなっていく。いつの間にか校舎裏に連れてこられ、絶え絶えな呼吸で彼女が喋り出した。

「郡さん……私、郡さんのことが好きなんです!」

「へ?」

これは、告白ってやつか。あ、いや、俺には誠吾くんという彼氏がいてだな。

「いやぁ、気持ちは嬉しいけど……」

「付き合えませんか……!こんな女とは……」

「べ、別に君が悪いわけじゃ……」

やんわり断ろうとしたが、彼女は今にも泣き出しそうだ。女の子を泣かせるのは気分のいいものではない。

しどろもどろしていると、聞き慣れた声がフェードインきてきた。

「ゃまとおおおおぉぉぉぉぉおお!!」

誠吾くんだ。

「お前!ちゃんと断れよ!オレというものがありながらあ!!」

「落ち着いてよ、誠吾くん!」

暴れ馬を落ち着かせるように宥めるが、誠吾くんは聞く耳を持たない。

「落ち着けるわけあるか!あんたも!あんたみたいなヒステリック女と付き合えるわけないだろ!」

「ひすてりー…………っ!」

「な、なんでそんなこと言うかなー!」

誠吾くんの暴言にショックを受けた彼女は、青くなって立ち尽くしている。ふるふると肩を震わせだしたと思ったら、鬼の形相が涙を流し、誠吾くんを問い詰めだした。

「そんなこと言うあなたはなんなんですか!?いきなり割り込んできて郡さんだって困ってるじゃない!頑張って告白したのに!」

「頑張って告白?急に連れ出して、大和を困らせてんのはあんたじゃん!それに!」

女同士?の熾烈な争いを見つめることしかできない俺は、大人しくしていよう。だか、この状況をどうにかしなければ。

「ちょっと落ちっ……」


「オレは、大和の彼氏なんだから!」


その時、今日一番の突風が吹きつけた。風は器用に誠吾くんのスカートだけを捲り上げ、下着をあらわにさせた。

「っ!」

「か、彼氏?意味わかんない!っ!」

彼女には見えていなかったらしく、パンツについては触れずに去っていった。

しかし、俺は見たのだ。確かにこの目で。



いちご柄のパンツを。



「っ、見た?」

「え!?」

「見たでしょ?」


いつか、こんな場面に遭遇したことがある。


誠吾くんは、顔を真っ赤にしてズンズン歩み寄ってくる。その気迫に思わず白状してしまうのだ。


「み、見ましたっ!」

「〜〜!やっぱりっ!」


でも今回は少し違う。

俺と誠吾くんは恋人同士なのだ。


「……う……た?」

「……え……?」


「パンツ……どうだった?」


「っか、可愛い!すごく可愛いよ!」

恥ずかしそうに聞いてくる誠吾くんも、いちご柄も。

「……よかった!あの日、褒めてくれたから、新しくいちご柄を買い足したんだよ!」

少し涙目で笑うんだから、可愛くて仕方がない。

「俺の為に、ありがと」

「ふふっ」

喜びと共に、誠吾くんの頬にキスをした。


初めての彼氏は、可愛くて、恥ずかしがり屋で、ちょっとスケベな、いちご柄のパンツが似合う誠吾くんだ。



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