パンツはいちご柄じゃない! 九枚目
これはこれで気まずいな……。
一人暮らし用のテーブルに少しのお菓子と麦茶が二人分乗っている。一人でも窮屈だったテーブルが、向き合って座ることでさらに狭く感じる。
「思ったより汚くないじゃん」
誠吾くんはまるで何回目かの訪問であるかのように馴染んでいる。僕は汗が噴き出て落ち着かない。恋人がいきなり家に上がり込んできたのだ。初めて僕のプライベートスペースに踏み込んできた誠吾くんを見て、かなり緊張している。
「そりゃ、さっき急いで片付けたし」
見られて困るもの、ゴミ、洗濯物は一分足らずで片付けた。金曜夜の映画を観ながら食べようと思っていたスナック菓子を引っ張り出し、お客様歓迎モードだ。
しかし、目の前で胡座を組み、スナック菓子をつまむ彼はお客様というには親密すぎる。一度は身体をまさぐり合った相手だ。今になって恥ずかしさが込上がってくる。
「何、どうしたの……大和?」
胡座を斜めに傾けて、不安げな表情を見せた。
どうして、君がそんな顔をするのだろう。今まで見たことがないような顔。何かに縋りたい、離れないでとでも言うような。
そんな残酷なことをしてしまっただろうか。誠吾くんを突き放してしまう行為など、したくないし、絶対にしない。おかしいと思い、誠吾くんに優しく問いかける。
「僕、なんかやっちゃったかな……?嫌な思いをさせたのなら謝るよ。なんでそんな顔……を……」
「な、何でもない!何でもない!気にしないで!」
誠吾くんは必死で誤魔化すけれど、僕は思い当たる出来事を知っている。思い当たりすぎて言葉が途絶えてしまった。ついさっきの出来事だ。
「さっきの事、気にしてるの?先生の話……」
先生の話を聞いて、誠吾くんは意外な反応を見せていた。好きだった相手を拒んだ先生に対する嫌悪や恐怖。
「っ……!」
当たりだったようだ。
「もしかして……怖い?」
伸ばしかけた手を止めた。誠吾くんの肩が竦んでいて、ひゅうひゅうと呼吸している。
怖いんだ。僕に拒絶されるのが。
「…………」
ガタン
何も答えないでいる静寂がもどかしくて、僕はテーブルをベッドの上に移動した。小さくて軽いテーブルはいとも簡単に持ち上げることが出来て、次の突然な行動に誠吾くんは顔を上げた。
「なっ……にして……」
「抱きしめてる」
力強く、離れないように、誠吾くんを抱きしめた。言葉にしなくても伝わるくらいぎゅっと。それでも、口に出さなきゃ伝わらない。
「僕は!誠吾くんのこと!大好き!」
「お前っ、いきなりっ……!」
「離れたり、突き放したり、置いていったりしないから!絶対に!」
顔を上げた時に誠吾くんは泣いていた。その涙につられて、僕も涙が出てきた。
今まで伝えていなかった言葉がぼろぼろと出てくる。「可愛い」以外にも伝えたい言葉がたくさんある。
「誠吾くんの大好きな所いっぱいある!恥ずかしがり屋なとことか、ちょっと大胆なとことか、男気のあるとことか!」
誠吾くんから体を離し、目を見てちゃんと伝えたい。涙でびちょびちょの顔を崩して、大好きな誠吾くんに。
「僕の彼氏を!嫌いになったりしない!」
「…………っ!」
「大好き!」
涙で濡れているのは誠吾くんも同じだった。震える手で抱きしめてくれた誠吾くんも、僕の耳元で呟いてくれた。
「ありがと……っ……ありがとっ……!」
初めて聞いた嗚咽混じりの声にも、愛おしさが込み上げてくる。僕は誠吾くんにぞっこんなんだ。
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