パンツはいちご柄じゃない! 五枚目


「こ、このやろおおおぉぉぉおお!」


「すいませんっしたぁあ!」


付き合ってしばらく経った春の日。誠吾くんが女性用の下着を着けてきて、その姿を見た俺は欲情してしまった。保健室に連れ込み、あれやこれやとまぐわっていると……。


「すいません!すいません!何もみてないっす!すいませえぇぇぇ……」

「見ただろ!確実に見ただろぉ!消せ、記憶から消せ!!このやろおおぉぉ……」


校庭側のドアから、一年生らしき男子生徒が入ってきた。息を荒げ、制服がはだけた男女(違う)がいる保健室に。一瞬、宇宙の果てとか三途の川とかヤバいものが見えた。目を丸くして見つめ合う三人。誰がどう見ても修羅場というやつだ。

真っ青になった一年生は、脱兎のごとく逃げていった。呆然とする俺を押しのけ、ブラジャー姿の誠吾くんが追いかけていく。さらにカオスな状況になる。謝り逃げる男子生徒をブラジャー姿の男子生徒が追いかけ、それを彼氏が口を開けて見ている。みるみるうちに二人の姿は小さくなっていった。

ガラガラッ

「…………おい、病人はどこへ行った」

せ、先生ーーー!!もうダメだ。おしまいだ。収集がつかない。せ、先生……助けて……。

乱れたベッドと男子高校生が涙目で先生に助けを求める。先生は眉間に皺を寄せて、俺と騒がしい校庭を交互に見た。

「漫画みたいなことが、保健室でできると思うなよ」

冷たく言い放った言葉は心臓を貫き、空気を凍らせた。身の毛がよだつような冷えは、ようやく効いてきた冷房のせいではないだろう。




「お前、名前は?」

午後の授業を休んで、俺たちは保健室に居座っていた。誠吾くんは彼を絶対に許しそうにない。ベッドに座り脚を組む誠吾くんは、阿修羅像のような気迫を出している。

「ひぃっ……!」

圧倒され恐怖におののく彼は、床に正座させられている。冷や汗をダラダラと流し、顔色はどんどん悪くなっていく。

「いっ、1年C組!仮屋真麻かりやまさです!あのっ……ホントに見るつもりはなかったんす!ちょっとサボろうとしてただけで……!」

浮気現場に妻が鉢合わせた旦那のような慌てようだ。涙を浮かべながら慌てふためく姿は実年齢より幼く見える。

「あの、逃げたりしてスミマセンでした!おれは、ああいうの、あんまり慣れてなくて…!」

素直に謝ってきたはいいが、頬を赤くしてそんなことを言われては、こっちも思い出し照れてしまう。不良のような風貌の彼も案外初心らしい。

「俺が悪いんだ。保健室であんなことしてたらダメだよな。本当にすまない、仮屋くん」

俺が悪いのは確実だろう。抵抗しない誠吾くんにつけ込み、自分の欲をぶつけようとした。

「誠吾くんも許してあげてよ。悪気があったわけじゃないんだからさ」

「先輩……!ありがとうござい……ん?」

「ん?どうしたの?」

一件落着しそうな雰囲気が、仮屋くんの疑問符によって遮られた。何かおかしなことをいっただろうかと首をひねっていると誠吾くんが、なにやってんだという目で見てきた。

「え?なんか変なこと言ったかな?」

「先輩、今『せいごくん』って言いましたよね……?」

仮屋くんが、信じられないという顔で誠吾くんを見つめている。

あ、やべ。

「あ〜も〜。なんで言っちゃうの……。引かれるに決まってんじゃん……」

「……ごめん……」

誠吾くんが頭を下げて肩を落とした。俺は、一人の人生を台無しにしてしまうかもしれない。愛する人の、愛すべき人生を。

恐怖が冷や汗になって押し寄せてきた。

「せ、先輩の彼女さん……」


「男なんすか……?」


ごめん、誠吾くん。いくら謝っても謝りきれないことをしてしまった。

仮屋くんの悪意無い言葉が、保健室を静寂に包み込んでいく。どんな暴言を吐かれるだろう、どんな風に拒絶されるだろう。考えるだけでも吐き気がやってきそうだ。

ちらりと誠吾くんを見てみるが、長い髪で表情は伺えない。しかし、肩は細かく震えていた。

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