「パンツはいちご柄じゃない!」全十話
パンツはいちご柄じゃない! 一枚目
ラッキースケベ的に、女の子のパンツを見れると思った。周りの女生徒よりも短めのスカートがばさりとなびく。踊り場の窓から吹き込んでくる風は彼女の長い髪だけでなく、俺の心臓まで揺さぶった。
「あ……!」
少し低くて透き通った声が階段中に響いた。
あっ……もう少し……。
ガタガタガタッ
窓が揺れる程の突風が吹く。僕の先、階段を登って斜め上、最高のポジションに彼女はいた。
風は悪戯にスカートを舞いあげ、彼女の下着をあらわにさせた。
「ぅあぁ!」
可憐な女生徒は慌ててスカートを抑える。そんな可愛らしい仕草とは裏腹に、俺が見たのは衝撃的なものだった。
「なっ……!ボ、ボクサーパンツ……!」
俺の声に、驚いた顔をした彼女が振り返った。顔を真っ赤にしてズンズンと歩み寄ってくる。
確かに見た。
彼女が……男性用の下着を履いているのを。
大体こういうシーンは、可愛いいちご柄のパンツだろ……!なんでボクサーパンツなんか履いてるんだ。女の子もボクサーパンツを履くのか?いや、でもあんな黒とグレーの男が履くようなやつ……!ま、まさか……。
混乱する頭を抱えながら悶々と考えを巡らせていると、ボクサーパンツの女生徒が俺の両肩をがっしり掴んできた。
ドッ!
「見た?」
肩を壁に押し付けられ、低い声で質問……尋問される。女の子とは思えないほどの剛力だ。
「み、た、の?」
可愛い顔をを朱色に染め、ジリジリと近ずいてくる。鼻と鼻が触れそうなほど近くなって、俺も照れてしまい、正直に白状してしまった。
「み、見ました!」
「〜〜!やっぱり……!」
耳の先まで赤くなった彼女は、悔しそうに俯いた。
「…れて……」
「……え……?」
蚊の鳴くような小さい声だ。聞こえなければ思わず聞き返してしまうのは当たり前だろう。聞き返せば、一ミリほども無い微かな疑惑が確実なものになってしまうのだが。
「オレが、男だってことは忘れて!」
……そりゃあ、いちご柄のパンツは履きませんよね…………って!違う違う!
「男……なの?」
信じられない。こんな可愛い女の子が男だなんて。
「な、なんで女子制服を着てるの……?」
ただただ不思議だった。とっても可愛い女の子が、男だなんて到底信じられなかったから。
「っ!気持ち悪いんだろ!……悪かったな、引き止めてっ」
俺は、階段を駆け上っていく彼の腕を掴んだ。女の子のように華奢ではなかったけど、少しだけ心臓が高鳴るのを感じた。
「っなんだよ!」
男にしては高めの声を張り上げて、俺の手を振り払おうとする。女の子みたいなのに男より力が強い彼は、俺の腕など簡単に取れるだろうから、両手に力を込めて踏ん張った。
「気持ち悪くない!スカートも長い髪も似合ってる!そこらの女の子より、全然可愛い!かっ、彼女にしたいくらい!」
ポロポロと言葉が出てくる。きっと本心だ。照れくさくても、今伝えないといけない気がしたから。
「か、のじょ……!」
ポポポっと赤く火照っていく。彼の腕から一気に力が抜け、思いっきり力を込めていた俺の方に倒れ込んできた。
「わわっ」
「うわっ!」
……これが、本当のラッキースケベか……。
俺の唇に触れたのは、紛れもなく彼の唇だ。柔らかくて温かい、初めての感覚。口紅もリップも塗っていない敏感な素肌。ずっとこの時が続けばいいと思った。
微かに潤んだ瞳が目の前で揺れている。恍惚とした表情に、俺も高揚してしまう。
窓から吹き込む風が熱を覚ましていく。
「ごめん」
とっさに出たのは、心のこもっていない三文字だった。しかし、彼はうっとりとした表情のままどこうとしない。
「……」
あ、可愛い。惚れ薬や媚薬を与えられたかのような表情。食べてしまいたいと思ったけれど、食べられたのは俺の方だった。
「オレは今から君の彼女。お互い一目惚れだろ」
オレの彼氏くん、ともう一度キスをされた。さっきよりも長くて熱がこもっていた。女の子に押し倒されているような状況で、不覚にも昂りを感じている自分がいる。
「ねぇ、君は……オレを可愛いって言ってくれた。これからも可愛がってくれる……?」
もう俺は君の虜だ。答えは分かっているくせに、茶目っ気溢れる小悪魔のような笑顔で聞いてくる。そのくせ頬は林檎のように赤い。
「その顔、最高に可愛い」
だから、俺からキスさせて。その可愛い唇に、頬に、首筋に。
人生初めてのラッキースケベは、いちご柄のパンツでも黒髪純情ヒロインでもなかったけど、十分スケベだった。
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