積年の恨みと未来への遺産

 7月も10日以上経った頃、朝起きるとやけに城が騒がしかった。

「あの、何かあったのですか?」と私が聞くと怪訝な表情をされる。

「雛殿は殿から何も聞いとらんのか?」

「え?何をですか?」

「井上氏が昨晩30名ほど誅殺された。いや、井上氏を誅殺した。」

「誅殺!?」

「聞いていなかったのか。とりあえず今日は城がずっとこんなんじゃろう。邪魔にならないように部屋に居た方がええな。」

 お礼を言い、言われた通り部屋に籠る。井上氏の誅殺。毛利元就の政治面での1つの転換期と言われる大事件だ。

「雫。」

「隆元様!?」

「どうした?今日は挨拶に来ないからてっきり体調でも悪いのかと心配したんじゃぞ?」

「こんな所に居ていいのですか?井上氏が…。」

 その言葉で隆元様は一気に渋い顔になる。

「聞いておったか。未来の者からしたらこれはどう映る?」

「私は…しょうがないと思います。井上氏は毛利家中で力を持ちすぎて、問題を起こしたと聞いています。それなら粛清されてもしょうがないのかなって。」

「未来ではこうやって対抗勢力の力を削るような事はあるのか?」

「流石に殺しはしないですけどあります。子供同士でもありました。」

「未来は殺さずに事をし終えられるのじゃの。」

 何か考え込んだまま隆元様は出ていってしまった。


 確か元就様がまだ幼かった頃、井上元兼の父の元盛に城を追い出されている。普通に考えたら当主の弟に手を出すなんてありえない。それほど井上家は絶大な権力を持ち、毛利家や元就様に多大なる影響を与えてきた。過去と別れを告げた…つまりこれから毛利家は新しい道に進むということかな。

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