父の景色


「井上元兼を?」


 父上から書状ではなく、わざわざ呼び出された内容は粛清だった。


「儂は今までずっと我慢してきた。しかし、家臣内での態度や横領…これを放置するのは如何なものか。家臣を切るというのは手足を切るようなもの。隆元もちろん分かるな?」


「はい。父上。」


 父上は昔…まだ叔父上が健在だった頃、叔父上が城にいない隙に井上氏に猿掛城を追い出され、大変な思いをしたことがある。たが、それでも井上氏を切ることにまだ抵抗の色を示されるのか。父上は…すごい人だ。


「もちろん井上氏全員を粛清するわけではない、毛利からして恩のある者は残す。長老の光兼もな。元兼達のみじゃ。無駄に命は取らぬ。」


「父上。いつに致しましょうか?」


「そうじゃの。もう少し暑くなった頃じゃの。」


 父上は外を眺める。父上の眼光は鋭い。悩みの色はなかった。しかし"家臣を切る"という言葉を口にした瞬間、少しの光が揺れた気がしたのは気の所為だったのだろうか。父上の見ている景色を儂は完全には見ることが出来ない。じゃが、父上の側に居れば似た景色は見れるかもしれぬ。父上、貴方の本心はどこにあるのですか?

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