餅と井上氏

 吉川小早川両家に元春と隆景を送り込めた。これで少しは家も安泰だろう。あとは嫡男さえ産まれればの。


 そう思いながら先日会った隆元のことを思い浮かべる元就。


 雫殿の登場によりもう少し夫婦共々積極的になるかと思いきや、あやつらは本当になかなかじゃ…


 手元の餅を齧りながらまだ産まれない孫のことを考える。


 家の安泰と言えば井上氏も考えものじゃの。


 箸の先には好物の餅がある。


 餅も時間が経てば固くて到底食べれぬ。そう考えれば、今井上の餅は食べ頃かもの。何十年もこの食べ頃の時を待っていたのだ。そろそろ良いだろう。


 箸を動かし餅を口の中に放り込んだ。昔あった井上氏の横暴な振る舞いを思い出してしまい、餅が喉に詰まりそうだった。


 妹婿殿は残そう。根絶やしにしてしまえば恨みが残る。


 詰まりかけた餅を飲み込み、隆元を呼ぶように声をかける。


 隆元やその子供たちが、毛利家の存続へ向かって頑張っていく際に邪魔になりそうなものは減らしておこう。上手く行けばきっと儂が体験したような辛い思いはしなくて済むだろう。




 廊下に出てみると数日前より陽が強く感じた。太陽に手を合わせ、目をつぶった。




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