まっくらの街

 この街は真っ暗で何も見えない。

 ランプをかざしてみても、その灯りはランプを持つ手すらも照らさず、そこでただ揺れてみるだけだ。ここでは灯りに価値は無いようだ。

 音の感覚を研ぎ澄ませると、石造りの街道に足音が見えた。

「なるほど、ここはそういう場所なんだね」

 足音を頼りに街道を歩いていくと、突然、人にぶつかってしまった。

 何故だ、真正面から来ていたようだが、足音が見えなかった。

 なぜ「人だ」とわかったかといえば、ぶつかった時の感触。

 重さ、硬さ、反動。そこから相手は軽装の男だと分かった。

「やあ、こんにちは。君はこの街では見かけない子だね。こんな所に、何しに来たんだい?」

 どうやら男の方も、あの一瞬で私の事を大体把握したようだ。

 いいや、と言っているあたり、ぶつかるよりも前から私の音を探っていたのかもしれない。

 いやだな、足音すらも隠す人間の考えることは、もっと見えない。

「ぶつかってしまって申し訳ない、失礼します」

私はきびすを返す。

「心が乱れているね」後ろから男の声がした。「見えない事、怖いって、感じているだろう?」

はは、まさか。

怖いよ。でも、

「見えてしまっていたら、もっと恐ろしい事だったかもしれないじゃない」

「そうかもね」


まっくらの街。

普通には見えない何かが見えてしまう気がして、駆ける足音が乱れた。

人間の考える事、そもそも見えないはずなのに、誰かが見せようとしてくるんだ。

「まっくらの中に閉じ込められてしまいそうだ」

私は早々に街をあとにした。

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