記憶の記録の街

 しんしんと雪が降り、吐息が凍る。

「一人一人の記憶がこの街には保管されているのです。あなたのものは、ここにありますよ」

 そうして案内された建物は、煙突のある、茶色いレンガ造りの家。

「どうぞ、心ゆくまで探してみてください」

案内人はそう言い残して、雪の街のどこかへ消えてしまった。


扉を押してみると、冷たい風が私よりも先に家の中へ駆けて行く。一緒に中に入ろう。

扉をしっかり閉じて、部屋を見渡すとパチパチと暖炉が音を立てていた。

壁にはびっしりと本棚が敷き詰められているが、私が探しているのはじゃない。

暖炉の側には小さな丸テーブルがあり、その上には四角い缶が置かれている。

たぶん、私が探してるものは、その中に。


缶の蓋をあけると、中にはお菓子が……入っていない。代わりに、何束もの封筒が溢れ出した。随分押し込められていたんだな。

これは手紙だ。

私の曖昧な記憶の、その形。

手紙の一つを取り出すと、そこにはしっかりと文字が書き込まれていた。

「何かいいものが書いてあったかい?」

同行者が後ろから覗き込むように尋ねてきた。

「君にはこれが分かるかい?」

手紙にはしっかりと文字が書き込まれていた。

しかし、その文字は私にはどうやっても読めない。どこか別の国の言葉で書かれた物を読んでいるようだった。

「君は、ずいぶん楽しく過ごしていたんだね」

同行者が手紙を見て言う。

「読めたのかい?」

「君が読めないものを、別の誰かが読めるはずないだろう? でも、分かるのさ、読めなくても感じることができる」

もう一度手紙に目を落とす。

文字は相変わらず読めないけれど、紙いっぱいに詰められた文字。書体。そこからは「楽しかった」という感情が見てとれた。

「楽しかった……」

私が探していた曖昧な記憶は、実体を持ってしてもはっきりと姿を見せてくれなかった。


手紙を缶に戻して、家を出た。

相変わらず、外では雪が降り続いている。

暖炉の前、暖かな空気の中で、静かに眠っている記憶。

あの手紙たちが本棚に並ぶ時は来るのだろうか。

「眠ったままの方が幸せなのかもしれない」

そう、自分に言い聞かせ、この街をあとにした。

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