川向こうの街

「困ったな」

 後ろも前も、川に挟まれてしまった。

 さっき渡って来た橋は上がってしまい、もう一つ向こうの岸へ渡る橋も、同様に上がっている。

 ザアサアと流れる川。泳いで渡るのは無理そうだ。

「君も渡り切れなかったのかい?」

 先ほど一緒に橋を渡って来たらしい男が声をかけて来た。

「ここの橋、上がるのが早いんだよね。僕はよくここで立ち往生さ。しばらく待てば、もう一度橋が架かるんだけどね」

「そうですか」

 それだけ言葉を交わすと、男が言った通り、しばらくすると橋が降り川を渡れるようになった。

 橋を渡るために一歩踏み出すと「そういえば」と男が後ろから声をかける。

「僕は昔、ある娘と、この場所に二人きりになった事があってね。その時だけは橋が早く降りて来たんだ。天気も景色も、とっても輝いていた日だった」

「その娘は?」

「川の向こうに行ってしまったよ」

 川の向こうには街が見えた。


 街で一人の娘に出合った。

「あら、こんにちは。川の途中に、人がいなかった?」

 いた。彼は橋を渡らずに残った、と答えると。娘は「そっか」と寂しげに笑った。

「あの人はあの場所が好きなの。ここで美しい景色を見たんだ、だから、ここから離れられない。って、そう言ったの」


 別れを告げると、娘はぽつり呟いた。

「……今まで一緒に見て回った街のほうがよっぽど美しかったわ」


彼が川の真ん中で再び美しい景色を見ることができるだろうか?

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