幸せが見える街

 不思議な街では人に会うことは滅多になかったが、ここには人がいる。

 綺麗に敷き詰められたタイルと淡い桃色の花をいっぱいに咲かせた木々。風が吹けば、その花びらが雪ののように舞う。綺麗だ。

 ここにいる人々は、この美しい景色を愛しい人と見るために来ている。ここは街の中の憩いの場所であるようだ。

見ませんか?」

 通りすがりの男性が声をかけてきた。

「どうしてあなたと一緒に見るんですか」

 悪い人ではなさそう。けれども、初めて会う人に唐突すぎる誘いをするものだから、私は聞かずにはいられない。

「誰かと一緒に美しい景色を見ることができる、幸せだと思わないかい?」

「いいえ」

 風で舞った花びらが頬の横をすり抜けた。

「たった一人で、君は幸せそうには見えない」

 幸せそうには見えない。

「美しい景色を見ることができるのは幸せ、かもしれないですが、私は、私だけで十分」

 十分、幸せだと感じることができる。

「……私はそんなに幸せそうには見えないですか?」

 私の質問に、男性はこう答えた。

「ここにいる他の人よりは、見えないね!」


 この街には「幸せの形」が見える人間がいるようだ。

 ただ、それは私の思っている「幸せの形」とは、どうやら違う。

「誰と勘違いしてたんだろう」

 周りで花を眺める人たちは、確かに幸せそうに見える。

 もしかして、私の思っている「幸せの形」は周りとは見当違いの異物なのかもしれない。

 錯覚してしまいそうになった。


 雑念を払うよう、服についた花びらを払い落とした。

「決まった形なんて無いはずだ」

 そう思いたい。

 私はこの街をあとにした。

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